近年、不動産業界では、殺人事件や自殺、火災などの事故死、孤独死などが発生してしまった“ワケあり”の部屋、いわゆる「事故物件」が増えているという。

その最大の理由は、「独居老人の孤独死」が増加傾向にあるからだ。特殊現場の清掃を請け負う業者のM氏に話を聞いた。

「孤独死は確実に増えている実感がありますね。発見に時間がかかる場合が多いのも事実です。

孤独死の第一発見者は、意外にも家族や友人、近所の人たちではなく、大家さんや不動産管理会社の場合が多いんです。理由は家賃が滞納されて、何度連絡しても応答がないからマスターキーでドアを開けたら……ってパターンですね。従って家賃を前払いしていたり、自動引き落としの場合は発見が大幅に遅れます」

男性の未婚率に加え、熟年離婚も増加傾向。今後、独居老人が増え続けるのは確実で、都市部での近所づきあいの過疎化、親子関係の希薄化も加わり、いっそう孤独死の発生件数も増えていくことが予想される。

では、こうした事故物件の情報を、不動産業者はちゃんと借り手に告知しているのだろうか? 某大手不動産仲介業者の営業マン、T氏が明かす。

孤独死のあった部屋は、法的な告知義務がない?

「不動産業界では、事故物件のことを『心理的瑕疵(かし)物件』と呼んでいます。『瑕疵』とは、品質や性能に欠陥や問題があることです。『心理的瑕疵物件』とは、具体的な実害はないかもしれないけど、心理的な不安が予想される物件のこと。これには、暴力団事務所や悪名高い宗教団体、ゴミ屋敷が近隣にある場合なども含まれます。

ただ、例えば暴力団事務所の場合、表向きは普通の企業を装っている場合がほとんどですよね? そういう場合はお客さんに告知されないことも多いんです。孤独死も同様です。確かにその部屋で人が死んだのは事実ですが、事件性がないとなると、死因自体はただの病死だったりするわけです。死後の状態がどんなに悲惨であろうと、告知するかどうかは微妙ですね。そこは業者によって、担当営業マンによって分かれると思います」

孤独死の場合、告知されるかどうかは担当営業マン次第ということ。では、殺人や自殺の場合は確実に告知されるのだろうか? T氏が続ける。

「基本的にはそうですが、法的な告知義務は直前に事件が発生した物件だけなので、ひとりでも誰かが借りたり買ったりしてくれれば、その次以降のお客さんに対しての告知義務はないんです。親切な業者は過去の情報も伝えるかもしれませんが、多くの場合は……。やはり契約を決めたいですから」

もちろん、「事故物件」であろうとまったく気にしない人もいるかもしれないが、住む前にその住宅に関する正確な情報を知りたい、というのも当然の心理。「事故物件」は、これからの日本が避けて通れない問題だ。

(取材/菅沼 慶)

■週刊プレイボーイ24号「『孤独死』急増で増え続ける“事故物件”隠蔽の怖~い話」より