自国を防衛する「個別自衛権」に対し、他国が攻撃された場合に共同で防衛を行なう「集団的自衛権」。安倍首相がその行使に向けて動き出したが、憲法解釈の変更だけでは、「国内法的には軍隊ではない」という特殊な事情を持つ自衛隊の“グレーゾーン”をすべて埋めることはできない。
なぜかというと、そもそも自衛権というのは、あくまでも「国家対国家」に限定して用いられる法的概念だからだ。
現実的には、冷戦終結後の国際紛争の多くは「国家対非国家」、あるいは「非国家対非国家」の争い。つまり、いくら「集団的自衛権」の行使が可能になったところで、国境を超えたテロ組織や無政府地域での武装集団などに対しては一切、役に立たないのだ。
次の例を見てみよう。
●PKOの武力行使 自衛隊は1992年のカンボジアでの初参加以来、たびたびPKO(国際連合平和維持活動)に派遣されている。日本政府の判断によって活動はあくまでも「後方支援」にとどまり、最前線での武力行使を想定した監視・治安維持活動(PKF)への参加は見送られているが、それでも局地的な戦闘に巻き込まれるケースもないとは限らない。
例えば、PKO参加中に現地の非正規ゲリラが襲撃してきた場合は……。
「警察予備隊を改組してできた自衛隊には、他国の軍なら当然定められている『ROE(交戦規定)』がありません。自衛権の範疇外における火器使用については、基本的に警察官と同様の“正当防衛”(撃たれたら撃ち返してよい)の規定があるだけ。もし局地戦などに巻き込まれた場合、ROEがないままでは、現場隊員が法律の“グレーゾーン”に陥ってしまうのは明らかです」(軍事評論家・古是三春氏)
「正当防衛」が原則なら他国を助けることはできない
●そのほかの海外派遣時 こうした問題は、そのほかの海外派遣任務、例えば2004年からのイラク派遣でも同様に自衛隊を苦しめた。
「当時、イラクの正規軍はすでに米軍によって無力化されていた一方、アルカイダなどの国際テロ組織は活発に活動していました。当時の小泉純一郎首相の『非戦闘地域への派遣だ』という言葉とは裏腹に、実際には自衛隊の宿営地付近に迫撃砲弾が飛んでくるなどの事件もあった。こうしたケースでも、自衛隊は“正当防衛”でしか対処できず、また共同で活動している他国の軍に何かあっても、法的な問題で助けることができなかった。相手がテロリストなら、共同作戦を行なう国を助けられないというのは『集団的自衛権』があっても同じです」(軍事ジャーナリスト・世良光博氏)
このように、自衛隊が直面するであろう“グレーゾーン”は数多く存在する。現場の隊員たちにとっては、集団的自衛権よりずっと大事な議論が山ほどある――というのが正直なところかもしれない。
(取材/本誌軍事班)