「5月29日(肉の日)に一斉ストライキを行なおう!」
アルバイト店員たちのこうしたツイートが飛び交い、その動向が注目された、牛丼チェーン「すき家」のストライキ騒動。結果的に、職務をボイコットし、ストを実行したのは、すき家の牛肉を製造するゼンショー傘下のGFF船橋工場にアルバイト勤務する男性ひとりだけであった。
大騒動にならなかったとはいえ、過酷な労働に悲鳴を上げてアルバイト店員が辞めてしまったために、一時閉店や短縮営業に追い込まれている店舗が続出しているのも事実。その数は、すき家の全国約2000店舗のうち、3月のピーク時には約250店、6月3日時点でも140店が一時閉店中だ。
人気牛丼チェーンのひとつでもあるすき家が、なぜこのような事態になってしまったのか? 東京・新宿駅近くにある某店のアルバイト店員A氏は、「引き金になったのは、2月中旬に発売した新メニュー『牛すき鍋定食』でした」と語る。
「牛丼の場合、肉とタマネギを鍋に入れて煮込むだけだから仕込みは15分ほどで完了し、注文を受けたら1分以内で提供できます。牛鍋の仕込みは鍋専用の肉を煮て、規定量の豆腐、うどん、野菜と一緒にタッパーに入れ、1人前に小分けした状態で冷蔵庫に入れておく。これを50食分用意しなければなりません。
(すき家の)本部は『20分でやれ』と言いますが、できるわけがない! どんなに急いでも60分はかかります。すき家の場合、これで店がパンクしてしまうのです」
この新メニューが店舗での作業を過酷にしてしまい、店員たちの間で不満が爆発。辞める者が続出してしまったというわけだ。
「2月」はアルバイト人員の不足が発生しやすい時季
しかし、牛鍋系のメニューは吉野家や松屋に追随する形で販売されたもの。なぜ、すき家の店員だけ“パンク”してしまったのか?
「すき家は深夜1時から朝7時までの営業をアルバイトひとりがすべて担う“ワンオペレーション(ワンオペ)”体制の店が多いんです。終電直後や朝の通勤時間は会社員や建設作業員が押し寄せますし、客が少ない時間帯も、店内の清掃から在庫確認、仕込み、場合によっては売り上げ管理までをひとりでこなさなければなりません」(前出・A氏)
加えて、鍋定食の発売時期も“最悪のタイミング”だったという。
「2月というのは、学生が進学や就職を理由にバイトを辞める時期とも重なり、どの店も人員不足に陥りがちです。残された店員の負担が増え、深夜のワンオペもヘルプ要員がいなくなります。ただでさえギリギリの状況になんの人員補充もなく、突然、牛鍋という“爆弾”が投下された感じです」
ワンオペ、店舗数拡大、そして豊富なメニューという、すき家の原動力でありセールスポイントは、今後どうなるのか。サービス業の生き残り競争は激しさを増すばかりだ。
(取材/興山英雄)
■週刊プレイボーイ25号「すき家にいま、何が起こっているのか?」より