殺人や自殺、孤独死などの現場となってしまった不動産、いわゆる「事故物件」。できればそこには住みたくないと考えるの人も多いだろうが、公的な告知義務は“直前に事件が発生した物件”だけ。つまり、ひとりでも誰かが借りたり売ったりすれば、その次以降の客には知らせる必要はない。

そこで頼りにされているのが、世界で唯一の事故物件公示サイト『大島てる』だ。同サイトには、殺人、火災、自殺、孤独死など、あらゆる種類の事故物件が、住所はもちろん、部屋番号までも掲載されている。

しかし、事故物件とは本来、なかなか表に出ないもの。いったいどうやって情報を収集しているのか。運営会社の社長、大島学氏に聞いた。

「ウチは先祖代々不動産業を営む家系で、私が家業を継いだ際、自分が事故物件をつかみたくないという思いで調べ始めました。当初は自分が物件を扱う可能性がある関東圏内で、新聞報道や警察発表をチェックしたり、裁判を傍聴したりして死因や住所を調べていました。

そのうちデータ量が膨大になり、部下から『一般公開してはどうか』との提案を受け、サイトを立ち上げたのです。公開してからは閲覧者の方々から事故物件の情報が数多く寄せられるようになり、そのたびに現場まで足を運び、近所の人への聞き込みなどを通じて自分で情報の正確性を確認し、サイト上に掲載していました。しかしサイトの知名度が上がり、規模が拡大してくると、自分たちだけで確認することが困難になり、現在は投稿制に移行しました」

もともとは個人で情報収集したものをサイトにアップ。その後、多くの情報が寄せられるようになり、一軒一軒“足”で確認していたが、それでも追いつかず、現在は一般投稿制に移行したとのこと。

「大島てる」」の存在で、告知する業者も増えた

だが、それではイタズラやイヤがらせなど、事実ではない情報も含まれる危険性もあるのでは?

「そこはウィキペディアと同じ精神です。確かに不正確な情報が一時的にアップされてしまうことはあります。しかし現在は閲覧者が非常に多く、間違った投稿があればすぐに情報提供が入ります。そのつど速やかに修正しているので、投稿日から1ヵ月以上経過した情報に関しては、ほぼ正確なものだと考えています。

以前までは事故物件を隠蔽する業者も多かったかと思いますが、このサイトで公開されている物件を隠してもすぐにバレることですから、今はちゃんと告知する業者が増えたと思います。事故物件をイヤがる人々のお役に立てている自負はあります」(大島氏)

近年は未婚率の上昇、離婚件数の増加に伴い、独居老人が増えている。当然、孤独死が社会的に避けられない問題になってくる。「事故物件」であろうとまったく気にしない人も多いかもしれないが、その情報を「知っていた」か「知らなかった」では、大きな違いがあるのだ。

(取材/菅沼 慶)