サッカーW杯が開催されているブラジルは、もともと治安の悪さが指摘されていたが、現地を訪れている日本人旅行者で、すでに強盗などの被害に遭った人も報告されている。しかし“危険”はそれだけではない。感染症にも警戒が必要なのだ。

その感染症とは「デング熱」。東南アジア、中南米など熱帯や亜熱帯地域で流行している病気で、原因となるデングウイルスを保有したヤブ蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカなど)に刺されることで人に感染する。

発症すると38~40度の急激な発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹などに見舞われ、重症化すると鼻粘膜や歯肉から出血し、最悪、死に至ることもある恐ろしい病気だ。

なにしろブラジルは、世界で最もデング熱の感染者が多い国といわれている。長崎大学熱帯医学研究所の森田公一教授が語る。

「ブラジルでは昨年、史上最悪、140万人のデング熱感染者が出たといわれています。今年も6月以降、雨期に入ったブラジルの北部でデング熱の流行が始まっています」

このデング熱、同じ熱帯病のマラリアと違って予防薬はなく、治療薬もない。熱を下げるなど対症療法しかない。しかも、頭痛がするからと解熱鎮痛剤を服用すると、血が固まりにくくなり、出血症状を助長する危険もある。予防はただ、長袖の服を着たり、防虫スプレーを使ったりして、とにかく「蚊に刺されないようにするしかない」という厄介な感染症なのだ。

日本国内には媒介蚊が生息している

ただし、デング熱は接触などによって人から人に直接感染することはない。発症期にある人を蚊が刺すことで蚊の体内にウイルスが取り込まれ、その蚊に刺された人に「二次感染」を引き起こすのだ。

日本の場合、媒介蚊の一種、ヒトスジシマカは、「沖縄から東北地方の広い範囲にかけて生息しています」(前出・森田氏)。しかも、日本の第1戦、第2戦が行なわれたレシフェ、ナタルは、イギリスの医学誌によると「深刻なリスクに直面する恐れがある地域」に挙げられていた。

デング熱に感染して発症するまでの潜伏期間は3~10日程度。ブラジルでデング熱に感染した人が発症する前に帰国し、日本国内で蚊に刺され、その蚊がさらにほかの人を刺す二次感染が起きると、日本国内で流行する危険性はあると森田氏は警告する。

このW杯期間中、ブラジルを訪れる旅行者は、地元の日系新聞によると約370万人にも上るという。つまり、ウイルスが世界中に拡散する危険もあるということだ。誰も感染せず、無事に帰国することを祈るばかりだ。

(取材/西島博之)

■週刊プレイボーイ27号「“感染サポーター”の帰国でデング熱が世界に広がる?」より