6月10日、気象庁は「監視海域」の海面水温が基準値のプラス0.6度で、「エルニーニョ現象の発生に近づいた」と発表した。
数年に一度発生するエルニーニョ現象とは、太平洋の赤道中央部から南米ペルー沖にかけて、海面の水温が平年よりも高くなる現象だ。太平洋東部の海水温が高まる一方で、太平洋西部の海水温は低くなる。そして海水温は大気の状態に影響を与えるため、エルニーニョが発生した年は、日本付近に高気圧が張り出さずに梅雨が長くなり、「冷夏になる」という認識が日本中に広まりつつある。
だが、はたして本当なのだろうか? 科学評論家の斎藤守弘氏は、「今年の夏は涼しい」という予測について、次のように疑問を示す。
「気象のメカニズムは、そんなに単純なものではありません。近年は、エルニーニョが起きた年でも東京の7月の平均気温が平年を上回るようなことが起きています。年を追うごとに温暖化が進み、今や夏場の日本列島周辺の海水温は、台風が発生する限界温度の27度に達する勢いです。
しかも、その温暖な海域が本州北端から北海道にまで届くほど。もはや、いつ日本周辺海域で台風が発生してもおかしくない気象環境になっている。地球温暖化の影響で、従来の天気予報の常識が崩れだしているのです」
実は、冷夏予想が一転、記録的な猛暑となった年が4年前にあった。気象に詳しい科学評論家の大宮信光氏がこう振り返る。
日本の夏の暑さは複雑な要素がからみあっている
「2010年はエルニーニョ現象が春まで続き、それを根拠のひとつとして冷夏と予測されていました。ところが、フタを開けてみれば冷夏どころか、“観測史上最も暑い夏”になり、特に8月は“観測史上最も暑い1ヵ月”となったのです」
9月に入ってもうだるような暑さは収まらず、東京で56日間、名古屋で87日間にわたって熱帯夜を記録。この2010年を表す漢字には「暑」が選ばれている。
元ウェザーニューズで気象研究家の幣洋明氏はこう警告する。
「エルニーニョ現象の影響が日本付近に表れるのは、夏の後半から秋にかけてと予測するのが妥当でしょう。それ以前に、偏西風の動きによってはチベット高気圧が予想よりも強くなり、フェーン現象が起きるなどして記録的な暑さなる可能性は十分あるのです」
すでに「今年はエルニーニョ冷夏で景気に悪影響」といった声も出ているが、近年の傾向を見るとそうとも言い切れないのだ。
(取材/奥田圭三郎)
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