世界の紛争地帯に出没する民間軍事会社(PMC)をご存知だろうか?

危険地帯における要人や施設の警護、現地民への軍事教育、国の正規軍に代わって海外で戦闘を行なうなど、軍事サービス全般を取り扱う民間の組織を指す。先日、イスラム武装組織「イスラム国」に拘束された湯川遥菜(はるな)氏が、その略称をそのまま社名とした「PMC JAPAN」という会社を設立していたことで注目を集めた。

実はこのPMC、ある時期の日本にも存在していた。アフガンやミャンマーなど紛争地で傭兵として活動した経験を持つ高部正樹氏が言う。

「今は存在しませんが、9・11テロの後、PMC産業に参入した日本企業は数社ありました。例えば、自衛隊OBが中心のある警備会社は、日本大使館などの在外公館の警備などを担いましたが、その後の業績は伸び悩み、結局PMC分野から撤退することに。他社も似たような流れで廃業しています」

さすがに、日本の企業が国内で“傭兵稼業”を行なうのは難しかったようだ。だが、海外で雇われてこの商売に従事することは可能。PMC関係者のA氏はこう言う。

「まず、自らを傭兵(マーセナリー)、もしくはPMCの従業員だと言う人はいません。 PMCの下で働く戦闘員は、コントラクター(請負人、契約者)と呼ばれます。今、海外で活動している日本人コントラクターは30名くらいでしょうか」

ただし、彼らは世界でも少数しかいないので特定されやすく、身代金目当てなどでテロリストに狙われるリスクがあるという。そのため、本名や出先の国名などは一部を除き伏せているが、今回そんな日本人コンストラクターに話を聞くことに成功。現在従事している仕事について、給与なども含めて話してくれた(金額は日本円で換算)。

日本人コンストラクターが極秘で告白

・施設警備発展途上国で油田、ガス田、鉱山の警備。山賊や海賊、イスラム過激派による襲撃が時々ある。日当は約5万円。

・海上警備タンカーや貨物船に乗船しての警備で、休みなしで1~3ヵ月働く。ある日本人チームリーダーは月給60万~70万円の給与を稼ぐ。機関銃、対戦車ロケット弾を保有する海賊が襲ってくることも。

・陸上トラック輸送警備イラク、アフガンなどの、危険地域で物資を運ぶトラックコンボイの警備。イラクでは日本人コントラクターも戦死している、非常に危険な仕事。2004年時点で日当7、8万円だったが、現在は、もっぱら途上国と現地出身の人々が従事していることからも日当は安くなっていると思われる。武装勢力の襲撃はもちろん、何よりも怖いのがIED(手製爆弾)。地雷として至る所に仕掛けられている。

・要人警護昔は、日当20万円と高額だったが、今は、5、6万円ほど。アメリカの軍事費削減の影響が大きい。

・地雷除去スーパーバイザーは、月給100万円だが、保険料は、給料の中から自分で払う。

以上は日本人のケースだが、傭兵の給料は世界共通ではない。アフガンに出撃した経験を持ち、現在はアメリカ空軍の内山進中佐が言う。

「出身国によって、コントラクターに支払われる給料はかなり違います。例えばアフガンで、トラックコンボイ警備などに従事するアメリカ人コントラクターの月収は220万円以上ですが、同じ仕事をするアフガン人は、月給3500円以上です」

むしろ日本人は優遇されているほうで、1年間働けば1000万円は稼げるという。あるコントラクターによると、もしクライアントが日本企業である場合、日本語の話せる日本人コントラクターの給料は高くなるそうだ。

しかし傭兵は、いつ命を失っても不思議ではないハイリスクな仕事。軍隊経験のない者に手が届く世界ではない。ミリタリーショップ経営者という経歴のみで現地に入った湯川氏にとって、あまりに高い壁だったともいえるかもしれない。

(取材/小峯隆性)

■週刊プレイボーイ36号「シリア拘束・湯川氏が憧れた“傭兵稼業”の実態」より