吉野家のちょい飲み店「吉呑(の)み」が人気だ。
吉呑みとは、1階と2階の2フロアからなる店舗の2階部分に飲酒スペースを併設した吉野家の新業態。JR神田駅店、東京駅八重洲通り店、西五反田一丁目店、調布駅前店、三軒茶屋店の都内5店舗と、大阪の十三店の計6店舗で営業中だ(8月29日時点)。
その店内は、昼は通常の牛丼店だが、夕方から居酒屋スタイルに切り替わり、「生ビール」(310円*キャンペーン価格)や「角ハイボール」(350円)、「焼酎(芋・麦)」(各300円)といったアルコール類のほか、「まぐろ刺身」(300円)や「冷奴」(150円)など居酒屋の定番メニューが低価格で提供される。
吉呑みは今後も中目黒店、西新橋店、所沢駅前店、名古屋の千種駅前店……と、続々オープンする予定なのだが、なぜ吉野家が居酒屋を?
吉野家の広報担当、吉村康仙氏がこう説明する。
「吉野家の店舗の中には、昼は席が埋まるものの、夜は客足が止まり2階フロアを閉めざるを得ない店も少なくありません。この2階の遊休スペースを活性化させるために着目したのが“ちょい飲み”市場。
昨年7月にそれまで赤字が続いていたJR神田駅店で吉呑み1号店をオープンし、1年かけてその収益性を検証しました。話題性が先行すると正確なデータが取れなくなるので、宣伝やリリースは一切行ないませんでしたが、それでも吉呑み併設後は客足が予想以上に伸び、夜間の売り上げが約4割アップ。相当な幅で赤字から黒字に転換できました」
この成果を踏まえ、吉呑みの本格導入が決まったという。そして、今後の出店計画がすごい。
「吉呑みには十分な収益性があると確信できたので、来年度までに30店で導入し、その後も『駅近』『2階がある』といった条件を考慮しながら最大400店まで増やす方針があります」
気になる味と安さの理由は?
400店というと、吉野家全店の約3分の1に相当する。そんなに収益が見込めそうとはビックリ。そこで週プレはその人気の理由を探るべく、平日夜に都内某店へ行ってみた。
1階は通常の牛丼店だったが、店に入り、カウンターで牛丼をかっ食らうサラリーマンを横目にしながら2階に上がると、そこは別世界。昭和風情が漂う居酒屋空間が広がっていた。
カウンターとテーブル席で計20席ある店内はほぼ満席。カウンターに座り、生ビールと料理数品を注文したところ、5分程度ですべてがそろった。
味もなかなかのもの。「まぐろ刺身」はほかの居酒屋チェーン店と遜色(そんしょく)なく、「牛すじ煮込み」(350円)はダシの染み入った肉が口の中でとろけた。「メンチカツ」(350円)は揚げたてでサクサク。ビールも進み、2杯目を追加オーダー。うん、値段も安いし、確かにアリだ!
「おつまみメニューの単価を100円~300円程度に抑えているので吉呑みの平均的な客単価は1000円~1500円。ちょい飲みには最適ですよね?」(前出・吉村氏)
その安さの理由について、吉村氏がこう続ける。
「吉呑みの食材は、どれも吉野家のグループ企業から仕入れているので新規の調達先を開拓する必要がありませんでした。例えば、牛すじ煮込みの牛すじはステーキ店『どん』、メンチカツは惣菜店『おかずの華』、まぐろの刺身などの海鮮系はすし店『京樽』の既存品を使用し、仕入れ値もほとんど変わりません。
また、物流もいつもの便にそのまま積み増せばいいだけなので追加コストがほとんどかかっていません。だから安く抑えられるんです」
ちょい飲み市場への吉野家の殴り込みは、これからが本番だ。
(取材・文/興山英雄)