おにぎりの具はすべて梅干しにするように―。
そんな珍妙な「梅干しでおにぎり条例」が9月26日、誕生した。制定したのは和歌山県みなべ町。全国の梅の3分の1近くを生産する梅の一大産地だ。
「町議14名全員の賛成で、すんなりと可決しました。反対意見? ありません」(みなべ町の下村勤町議会議員)
おにぎりの具は梅干しに限ると法規制をする?
おにぎりはさまざまな具があるからうまいのだ。これって町民に梅干しおにぎりを強要するファシズムではないか?
一体、みなべ町に何が起きているのか? 早速、記者は現地に向かった。
町内を回って驚いた。とにかく梅だらけ。口の中で唾が出っぱなしになるほど梅だらけなのだ。「日本一の梅の里」と大書された巨大看板、屋上に巨大な梅干しオブジェを設置しているビル、梅畑には「梅観音」立像も見える。さらには町役場に「うめ課」という部署まである!
「すぐやる課」ならわかるけど、「うめ課」って何よ!?
「梅を専門に担当する行政部署です。うめ課があるのは全国でもここだけ」(みなべ町うめ課の林秀行課長)
でも、そんな梅だらけの町が、なぜ、あらためて「梅干しでおにぎり条例」なんてものを作ったのか?
前出の下村町議が教えてくれた。
「日本の梅干しの消費量が年々減っているんです。みなべ町ではこれまでも全国の皆さんにもっと梅干しを食べてと、いろいろとアピールしてきたんですが、どうにも効果が出ない。そこで、まずは地産地消、みなべ町民自らが梅干しをたくさん消費することで、全国に梅干しのよさをアピールしようと考え、『梅干しでおにぎり条例』を制定することにしたんです」
罰則規定の無い条例
確かに、日本の1世帯当たりの梅干し消費量は年間1053g(2002年) から754g(13年)と、10年余りで約25%も減っている。
聞けば、みなべ町では蜂蜜入りのしょっぱくない梅干しや、マラソンランナーがレース中に食べられる「ランナー用ひと粒包装梅」を開発するなど、あの手この手で梅干しの消費拡大に努めてきたという。
しかし、それでも梅干し人気は下がる一方だ。ちなみに、お膝元の町内のコンビニでの売れ筋おにぎりを聞くと、
「梅は人気ないです。一番人気は昆布」
「梅のおにぎりはあまり売れない。ツナマヨを求める人が多いです」とのことだった。
なるほど。これでは「梅干しでおにぎり条例」を作りたくもなるわけだ。
だけど、やっぱり気がかりなことが……。
条例というからには、違反をしたらやっぱりなんらかの罰則を受けることになる?
「いえいえ、この条例に罰則規定はありません。町民はおにぎりにどんな具を入れても構いません。ただ、梅干しも忘れずに入れてね、と。それだけなんです(笑)」(前出・下村町議)
なーんだ。「梅干しでおにぎり条例」って、かなりゆるゆるの条例じゃないか(笑)。
調べてみると、すでに全国には「りんごまるかじり条例」(青森県板柳町)や「梅酒で乾杯条例」(和歌山県田辺市)など、自治体の特産品をアピールする条例がいくつか制定されているらしい。
そのうち、みなべ町などの動きをマネる自治体が続出し、“ゆるキャラ”ならぬ、“ゆる条例”ブームが起きるかも。
(取材/ボールルーム)