アトランティスの候補地は今では世界に約90ヵ所も。写真はアトランティス水没候補地として条件を満たすという地中海中部のマルタ島

世界的に最も有名な古代史の謎といえば、「ムー大陸」「アトランティス大陸」を思い浮かべる人も多いだろう。「週プレ」ではこれまで何度もこの伝説に関して調査・研究・リポートを行なってきたが、今回、アトランティスについて新たな事実が判明した。約4000年前に発生した大地殻変動が「アトランティス沈没」に関係していた?

■アトランティスは「大陸」ではなかった

《大昔に優れた文明が栄えていた陸地が、突如として天変地異に襲われ海中へ沈んだ》

そんな内容の話が古代から世界各地で語られてきたなかで、よく知られているのが「アトランティス王国」の伝説である。これを最初に世に広めたのは、紀元前5~4世紀頃のギリシャに実在した大哲学者プラトンだった。

しかしプラトン本人が、その失われた王国を実際に訪れたわけではない。古代エジプトに伝わっていた遠い過去の歴史秘話を、また聞きのまた聞きとして書物に記したという。おそらくアトランティス王国の名前も、ギリシャ神話の巨人神「アトラス」を元にプラトンが考えたものだろう。

とにかく、そのプラトンが書き残した内容によると、アトランティス王国は太古の地中海地域で最も先進的な文化を誇り、壮麗な石造建築物が立ち並ぶ大都市を築き、強大な軍事力でヨーロッパとアフリカ各地に領土を広げていた。

ところが繁栄の絶頂期に大地震と洪水に襲われ、一昼夜にして海中へ消えてしまった。その滅亡時期はプラトンの時代から9000年前、つまり今から約1万1000年前だという。

問題は、アトランティス王国が沈んだ場所だが、これについてプラトンは地中海最西端のジブラルタル海峡と推定される「ヘラクレスの柱」の西側だと記した。そのためヨーロッパが大航海時代を迎えた15世紀から大西洋が「アトランティック・オーシャン」と呼ばれ、アトランティス伝説の水没海域を真剣に探し求める学者や研究家、冒険家が続出した。

1万1000年前に温暖化による海面上昇が

しかし、ここで念を押しておくと、よく使われる「アトランティス大陸」という“通称”には根本的な誤りがある。プラトンはアトランティスの繁栄ぶりを「大いなる土地」と表現したが、それを19世紀のアメリカ人研究家イグネーシャス・ドネリーが著作の中で「大きな島、大陸」と誤訳したのだ。

そのため、アトランティス大陸が沈んでいそうな候補地は、大西洋ばかりか太平洋にまで拡大されてきた。アトランティス研究の流れをよく知る、フランス人ジャーナリストのエマニュエル・シャニアル氏によると、「アトランティスが必ずしも大陸ではなかったという視点から、その候補地は陸上にまで広がり、今では約90ヵ所にも増えています。そうしたアトランティス伝説の信憑(しんぴょう)性を熱狂的に支持する人々がいる一方で、空想性の強い夢物語と決めつける歴史学者や考古学者も少なくありません。

ただし最近は、否定派の人々もプラトンが記した1万1000年前という水没時期には大きな関心を向けるようになってきました。なぜなら、最新の氷河期(ウルム氷期)が約1万5000年前頃に終わり、急速な温暖化で陸氷が解けて海面上昇が最も加速したのが、ちょうど1万1000年前頃だったという地球科学の見方が定説化したからです。

その当時に海岸や海に近い河川近くに暮らしていた人々は、年ごとに陸地が水没していく光景を目にしたに違いありません。この自然現象は地中海だけでなく世界各地で同時進行したので、そうした古代人類の共通記憶がアトランティスなどの陸地水没伝承のベースにあるかもしれないと、否定派の中にも譲歩姿勢を示す人たちが増えてきたのです」

*明日配信予定の第2回に続く

(写真/有賀 訓)

■週刊プレイボーイ44号「短期集中連載 古代史最大の謎を追う! 第1回『アトランティス大陸』沈没の真相がわかった!」より