“マルタ島”では8000年前頃から世界最古の巨石神殿が造られ始めていた

古代ギリシャの大哲学者プラトンが、今から約1万1000年前に海中に沈んだと記し「アトランティス大陸」。だが、これまでの研究により、アトランティスは必ずしも大陸ではなかったことが判明した。その結果、その候補地は陸上も含め90ヵ所にも増えているという。果たしてアトランティスが沈没したのはどこなのか――? 古代史の謎に迫る、第2回!

■世界最古の巨石神殿を持つ文明

これまで、長期にわたってアトランティス伝説の謎に挑んできた「週プレ」は、10年前にエマニュエル氏の紹介でフランス・エクサンプロバンス大学のジャック・コリーナ教授(考古学、地質学博士)によるアトランティス研究を特集リポートした。

これもまた、1万4000年から1万1000年前頃に進行した海面上昇によって、ジブラルタル海峡のすぐ西沖に沈んだ「スパルテル海丘(水深56m、面積14×5km)」が、アトランティス伝説のモデルになったかもしれない……という内容だった。その後、コリーナ教授の研究はどう進んできたのか。

「コリーナ教授は、地中海沿岸や大西洋沿岸各地で起きた氷河期終了後の温暖化と海面上昇率などを比較し、確かにスパルテル海丘はプラトンの記述にあった1万4000年から1万1000年前頃に海底へ沈んだという結論を得ています。

しかし、それ以前の陸地時代のスパルテル島に人間が住んでいたとしても、巨大な神殿や都市を築くほどの文化レベルには達していなかったというのが現在の教授の考えで、今のところ、現地調査でもアトランティス伝説との関連をうかがわせる証拠は見つかっていません」(フランス人ジャーナリストのエマニュエル・シャニアル氏)

ウルム氷期後の海面上昇(陸地水没幅)は、1万1000年前の最盛期でも年間約3cm。一昼夜にしてアトランティスが沈んだというケタ違いの伝説とは、比較しようがない。そもそも、プラトンが記した水没原因は「地震と洪水=津波」だった。

脚光を浴びる“地中海中部地域”

その点はコリーナ教授も検討したが、1万4000年から1万1000年前の5000年間に大西洋と地中海では、島が一瞬で沈むような激しい地殻変動は起きなかったと結論した。

ならばプラトンが記述した時間軸を少し後へずらし、文明らしきものが生まれた1万年前以降に目を向けた場合はどうなるのか?

例えば、地中海東部のエーゲ海に浮かぶサントリニ島で3600年前頃に起きた巨大噴火とアトランティス伝説の関係性が、1980年代には注目を集めた。その噴火で発生した火山噴出物と大津波が、約100km南のクレタ島の古代ミノア文明(約4000~3500年前)を壊滅させ、アトランティス伝説のモデルになったという仮説である。エマニュエル氏は言う。

「氷河期終了後の海面上昇で海底の水圧が増大したせいか、この1万年の間に地中海地域では地殻変動が活発になり、地震、火山噴火、津波などの自然災害が続発するようになりました。その地中海のなかでも数年前から脚光を浴びているのが“中部地域”です。

この地域の陸上と海底には、1万年前以後に造られた巨石神殿や都市遺跡などが数多く残り、同時期に地中海東部よりも火山噴火や大地震が頻発した形跡があるので、アトランティス水没候補地の条件を十分に満たしています」

では、アトランティスと結びつきそうな遺跡や遺物があるという、その地中海中部地域とはどこなのか? エマニュエル氏とともに何度も地中海地域を取材した考古ジャーナリストの有賀訓(あるが・さとし)氏は、こう断言する。

「それは、ミノア文明よりずっと古い、8000年前頃から世界最古の巨石神殿が造られ始めていた“マルタ島”と周辺の海底です」

*来週配信予定の第3回に続く!

(写真/有賀 訓)

■週刊プレイボーイ44号「短期集中連載 古代史最大の謎を追う! 第1回『アトランティス大陸』沈没の真相がわかった!」より