現在、西アフリカで猛威を振るっているエボラ出血熱。アメリカやスペインでも、アフリカ滞在中に感染したとみられる人物が発症するなど人類対エボラウイルスの“戦場”は全世界規模に広まりつつある。
果たして日本は大丈夫なのか? 国立感染症研究所(感染研)ウイルス第一部の西條政幸(さいじょう・まさゆき)部長が語る、日本のエボラ対策の「現実」と「問題点」の後編。
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―そう考えると、ますます「BSL(バイオセーフティレベル)-4」が必要なのではないかと思えます。世界19ヵ国がBSL-4を感染症対策の拠点としている一方、日本では1981年に完成したBSL-4が今も正式稼働していない。近隣住民の反対運動もあると聞きます。
西條 BSL-4が動いていないのは、国の複合的な判断。今まで動かなかった理由を、反対運動のせいにするのは大きな間違いです。BSL-4が必要だという機運が高まるなかで、動かすかどうかを決めるのは、あくまでも国の政治的な判断だと思います。
―人口の密集していないほかの場所に、新たに造るわけにいかないんでしょうか?
西條 研究所を建てるには国の莫大(ばくだい)な予算がかかるし、施設を維持する必要もある。国家レベルで感染症対策の目標をどこに置くかということにも関わります。それに、仮に新たに造っても完成は10年後、20年後。そこから社会に貢献できるのは、さらに10年後になるかもしれない。やはり、現実的にできることは何かと考えると、今ある施設の稼働が望ましいのではないでしょうか。
エボラのワクチン開発ができない日本の現状とは?
―やろうと思えば、すぐに稼働できますか?
西條 システム、機能、構造なども含め、そのためのトレーニングを積み重ねたスタッフはそろっています。稼働させることはいつでもできます。
―BSL-4がなければ、もし「エボラ疑い」の患者が陽性と確定した場合、できることが非常に少なくなります。
西條 患者のためにも、また医療従事者や研究者の安全のためにも、BSL-4は必要。患者が実際に出てから「必要だ」と言うのではなく、出る前からその体制をつくっておかなければならないと思います。
それに、BSL-4がないと、エボラなどリスクグループ4に分類される感染症については、ワクチンなどの研究開発もできません。途中まではいけても、動物に投与するなどの最後のプロセスは、どうしても海外でお願いするしかない。しかし、そうすると結局、研究成果はその国のものになってしまい、つくったワクチンをこちらに戻すことさえできません。
BSL-4の施設できちんとした研究ができていれば、もしかしたら、今回のエボラの感染拡大を防ぐワクチンを開発できたかもしれない。その“土俵”にすらのることができていないというのが、日本の現状なのです。
(取材・文/世良光弘 協力/松長 孝)