モホス平原の北東部にある水晶山「メルセデス」には麓から山頂まで3、4重の螺旋状に岩を並べた痕跡があり、何かの模様を彫りつけたような岩も見つかった

地中海マルタ島を脱出したアトランティス人は、大西洋を越え南米大陸はアンデスとアマゾン川源流域にその足跡を残した。だが、アマゾン川源流のモホス平原に文明を築いた彼らは、あるときを境に、その痕跡が突如途絶えてしまった。

その原因として、アンデス高地を統一したインカ帝国の武力進出という見方がある一方、気候変動による“干ばつ説”と“多雨説”、金銀などの採掘で発生した有害物質が流れ込んだという“鉱毒説”など、いくつもの悪条件が重なって急速に衰退したという見方が有力となってきた。

■アトランティス人の直系子孫たちは今でも生きている?

そして16世紀に入り、インカ帝国はスペイン軍に滅ぼされ、総量180tの黄金を奪い取られた。しかしスペインとポルトガルは、なおも財宝を求めて現在のボリビア・アマゾン地域と、その東側のブラジル・マットグロッソに広がるジャングル地帯を探索した。なぜなら、この地域こそ当時のヨーロッパ諸国を惹きつけた「エル・ドラド(黄金郷)伝説」の中心地だったからだ。

考古ジャーナリストの有賀訓氏によると、

「普通の土より粒子の細かい土壌に覆われたモホス平原も、北や東に行くと花崗岩の多い地質に変わります。花崗岩は金を含む場合が多いので、エル・ドラド伝説は決して絵空事とは言えません。モホス平原でも、19世紀初めにロマらしき場所から砂金が詰まった壺が掘り出されたという話が伝わっています。

当然、15世紀のスペイン軍はモホス平原でも黄金を探したはずですが、その数百年前まで栄えていた巨大農耕文明の遺跡には気づかなかったようです。ただし、このエル・ドラド探索のなかで、もうひとつ不思議な情報が飛び交いました。それはモホス平原北部とマットグロッソのジャングル地域で、スペイン軍とキリスト教宣教師が出会ったという“肌の色が白く背丈が高いインディオ部族”の話です。その人々は上質な布の衣服を着て、ほかのジャングル部族よりも明らかに文化レベルの高い暮らしをしていたというのです」

今も秘境に住む部族に色の白い人々が

財宝探しが至上目的だった西洋の侵略者たちは、その白い肌のインディオを“エル・ドラドの番人”と考えたようだが、この人々が滅び去ったモホス文明の子孫だったのではないか。ただし、有賀氏によると、南米大陸最後の大秘境地帯で語られてきた白い肌のインディオ伝承には、決して過去形では終わらない奥行きの深さがあるという。

「15世紀から後、現代に至るまで、この白い肌の人々の目撃談は絶えていないのです。1920年代に何度か南米奥地を訪れ、最後はジャングルで消息を絶った英国の探検家ハリソン・フォーセット大佐も、やはりマットグロッソで色の白いインディオに遭遇したという未確認情報が残っています。そして私自身も、2007年のボリビア取材でモホス平原東部の町バウレスで非常に面白い話を耳にしました」(有賀氏)

それは有賀氏がバウレスの役場を訪れた際に、町長をはじめ数人の市職員が「100パーセントの実話!」と前置きして語った内容だ。

その証言によると、バウレス町から北方約70km、馬とボートで片道3、4日間かかるブラジル国境近くのジャングル地帯に、3枚の巨大な石英岩(水晶)のブロックを「TT」形に組んだ奇妙な構造物があるというのだ。大きさは支えの2枚が約5m四方、上に載せた1枚が5×10m四方、それぞれ厚さは1mほど。どうやら、この謎の遺跡は古代の巨石記念物「ドルメン」だと考えられる。

バウレス北方には「TT」形の巨大な石造遺跡があるという。イメージとしてはゴゾ島に残る神殿入り口(写真)のような形か?

モホス平原のジャングル地帯に残る不思議な遺跡と先住民について、バウレス町役場の職員たちは多くの情報を提供してくれた

「太平洋に沈んだ陸地伝説」

「大切なのは、この秘境中の秘境地帯に今も文明と接触していない部族が住み、その一集団に色の白い人々がいるという証言を得たことです。

さらにバウレスの東南約50kmには、モホス文明の聖地だったといわれる、全体が石英岩盤でできた円錐(えんすい)形のメルセデス山(標高85m)があり、登ってみると麓(ふもと)から山頂まで花崗岩の岩を反時計回りの“渦巻き形”に並べたと思われる痕跡が残っていました」(有賀氏)

モホス平原の北東部にある水晶山「メルセデス」

この山は至る所で石英(水晶)が見られる

この話は、第4回リポートで紹介した地中海マルタ巨石文明の「渦巻き形ピラミッド」にそっくりだ。そして、もし今もモホス平原北方のジャングル地帯に白い肌の集団が隠れ住んでいるとしたら、その人々こそ今でも生き残っているアトランティス人の直系子孫ではないのか……。

マルタ巨石文明の遺跡のひとつ、石灰岩の岩山を整形したゴゾ島マルサフォン地区の「渦巻き形ピラミッド」

地中海のマルタ島からイタリア半島、そして南米アンデス高地とアマゾン川源流域。6回にわたって本誌が追ってきたアトランティス人の足どりは、ここでひとまず終着点となる。

とにかく大昔に海中へ沈んだアトランティス伝説は、実際に起きた巨大天変地異の悲劇の記憶を伝える話だけでは片づけられない。実はその生存者たちが世界各地の文化や歴史に意外な影響を及ぼしてきたことが、最大の注目点なのだ。

そして本誌のアトランティス取材が到達した南米大陸は、終着点であると同時に、失われた陸地の伝説と人間の歴史の関係をさらに追求していく出発点になる。その新たな視線の先に横たわるのは、アンデス高地の西側に広がる「太平洋」だ。

この地球面積の3分の1を占める太平洋地域でも、ある日突然に起きた陸地の水没、大津波、大洪水をテーマにした多くの謎めいた伝説が語られてきた。われわれ日本人の祖先=縄文人の生い立ちや歴史にも直結する、この「太平洋に沈んだ陸地伝説」については、また機会をあらためて連載リポートをお届けしたい。

(写真/有賀 訓)

■週刊プレイボーイ49号「短期集中連載 古代史最大の謎を追う!第6回 アトランティス人の末裔は今も生きている!」より