山梨県のリニア実験線でのトンネル工事(2012年撮影)。路面が出水で濡れている。東京-名古屋間の246㎞もあるト ンネル区間で異常出水と水枯れの同時災害が懸念される

ついに17日、リニア中央新幹線の着工が始まり、東京駅と名古屋駅で式典が開催された。

だが、前日の16日には「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」が建設認可の取消しを求める「異議申立書」を国土交通省に提出。今後、沿線住民、特に立ち退きを食らう住民の粘り強い抵抗が予想され、事業はすんなり進みそうにない。

また、立ち退きのみならず、環境破壊や建設費用についても大きな問題があることを『週プレNEWS』では伝えた。

さらに、工事が順調にいかない理由がもうひとつある――トンネル工事の入札などはいまだ公募していないが、現状ではすぐに食指を伸ばすゼネコンはないというのだ。

10月下旬、鉄道建設では名の知られた準ゼネコンのベテラン社員であるBさんに話を伺うことができた。リニア特需に期待する立場で語られるかと思いきや、意外にもそうではなかった。

「わが社ではリニア建設を躊躇(ちゅうちょ)しています。というか、リニア計画への参入には後ろ向きです」

それは一体、なぜ?

「採算が取れるかが怪しいからですよ。おそらく受注したら、1㎞あたり数十億円とか数百億円の枠での受注となるでしょう。つまり、弊社がその額面以内で工事を終えられるかということです。

これまでの整備新幹線は、国と自治体のお金で建設されたから工費がオーバーになってもカバーしてもらえた。だが、今回は違う。JR東海は、1987年の国鉄民営化の時に国から東海道新幹線を約5兆円で買い取りましたが、その時の借金がまだ約3兆円残っています。

そういう会社が全額自費負担でリニアの建設を手掛けるということは、工期が延びて工費がかさんでも、最初の受注額以上はビタ一文、弊社には入りませんからね」

改めて議論すべきリニア事業の是非

長野県の諏訪湖は約6000万立米の体積をもつが、リニア工事で出る残土もほぼ同量。つまり、諏訪湖をすっぽり埋め立てられる量なのだ

工期が延びるなど建設工事ではよくあることだが、Bさんは、特にトンネル工事を懸念している。というのは、リニアは東京-名古屋間の286㎞のうち86%にあたる246㎞がトンネル区間だからだ。途中には史上初のトンネル掘削となる「天然の水瓶」南アルプス連峰もある。

「トンネル工事って大変なんです。何が難工事かというと異常出水です。すごいですよ。トンネルの中で人が流されるんだから。それでもし社員がひとりでもふたりでも死んだなんてなったらシャレになりません。JR東海は当然弊社の参入を見込んでいるけど、今、どうやってそれを断ろうかと…」(Bさん)

また、異常出水が起こるということは、同時にどこかで水枯れが起きることも意味する。つまり、建設業者は異常出水と水枯れの両方に対応しなければならない。

これについて、JR東海は「事後調査をする」と公言している。つまり、トンネル掘削後に周辺の河川部などの水質や水量、水位を定期的に検査し、もし異常出水があれば、そのペーハーを調整し濁水処理。自然由来の重金属混入の除去もして元の場所に水を戻さねばならないということ。水枯れが起これば、代替水となる井戸を掘削したり、給水車で水を運ぶことも建設会社は求められる。

「そのための施設の建設や維持だって膨大な費用がかかります。それまでも当初の受注額で賄(まかな)うとなったら、それは及び腰になりますよ。私の聞く限り、いまだトンネル区間で手を挙げているゼネコンの情報はありません。どこも慎重に考えているはずです」(B氏)

金もなく、建設会社も決まらなければ当然、リニア建設は暗礁に乗り上げる。それを解決するために導き出される結論はひとつしかない。Bさんが望むのも、やはりリニアは整備新幹線同様に国費や公費を投入すべきということだ。

もしJR東海への投資先が現れていないとすれば、この総選挙明け、すぐにでも国費での建設費支援が与党内で話し合われるかもしれない。だが、そのプロセスを国民が秘されることだけは許されない。

「国費を使うことは断じてない」としてきたのがJR東海の“約束”であり、それを破るならば、甚大な血税とともに大きすぎる負の代償を払う恐れがあるリニア事業の是非を徹底して再議論されるべきだからだ。

(取材・文・写真/樫田秀樹)