週刊紙『シャルリー・エブド』本社がふたり組の男に襲撃され、警備中の警官2名、週刊紙関係者10名が射殺されるなど計17名が死亡したフランスの連続テロ事件。その衝撃と脅威は増すばかりだ。

これまでテロといえば、人々が集まる場所で爆弾を身にまとったテロリストが自爆するか無線で起爆させられるという自爆テロが主流だった。

だが、今回の新聞社襲撃事件は違う。

警官が警護しているのにもかかわらず、標的を正確に射殺しただけでなく、そこで自爆死を選ばずに逃走を試みているのだ。その後、犯人たちは籠城先で特殊部隊によって射殺されたものの、これは新しいタイプのテロといってもよい。

犯行の模様が映っているビデオを見て、数々の対テロ任務を経験してきた日本人コントラクター(傭兵)のA氏がこう指摘する。

「彼らは移動しながら警官にセミオート、単発でとどめを撃つなど実に落ち着いています。また、駆けつけたパトカーへのまとまった着弾弾痕、現場を離脱する際の車の運転ぶりもこなれていて、その戦闘技術は〝兵士級〟といえます。これまでのHGTとは明らかにレベルが異なります」

ちなみにHGTとは、ホーム・グロウン・テロリスト(自国育ちのテロリスト)のこと。自国(ホーム)にいながらイスラム過激派サイトなどを見て、テロリストに成長(グロウン)。担い手は主に若者で、対テロ治安当局が把握できない最強テロリストとして警戒を強めている。

今回のテロでは、もう1チームが別の場所で女性警官を射殺し、ユダヤ系食料品店に立てこもり、4名の人質を射殺したことも見逃せない。テロ犯は単発ではなく“同時多発テロ”を実行したというわけだ。

これまでHGTによるテロはオーストラリアとカナダで確認されている。しかし、その犯人らの戦闘技術は稚拙(ちせつ)で素人同然だった。

テロ戦術の次の段階“HGT-US”とは?

前出の日本人コントラクターA氏が続ける。

「テロ戦術が“次の段階”に入ったと感じます。“HGT-US”とでも名づけましょうか。海外で高度な訓練を受け、プロの戦闘技術を身につけ、故国に“U”ターン。その後、“S(スリープ)”モード(眠った状態)で犯行時期をうかがう。新しいタイプのHGTです。こうしたHGT-USは欧米に数十ユニットの単位で潜伏しているとみています」

元フランス外人部隊のスナイパーで、2度のアフガニスタン出征経験を持つ反町五里伍長もうなずく。

「襲撃から殉教まで、まさに“プロのテロリズム”を感じました。アルカイダ、イスラム国の人材確保、思想・軍事教育は充実してきている。彼らの強みは欧米の警察・軍よりもスピーディに人材を育成できること。毎日が実戦と処刑の連続のイスラム国なら3ヵ月から6ヵ月の経験があればそれも十分可能というわけです」

では、武器の調達はどうするか。アメリカならば、素人であってもすぐに銃器は入手できる。フランスでそんなことが可能なのか?

「カラシニコフはバルカン半島経由で入っていますし、最近はウクライナからもバンバン入っています。実際、コルシカ島での新年記念行事では、高校生がカラシニコフを空に向けてフルオートで撃ちまくり、大人たちも重機関銃をぶっ放していましたからね。フランス国内での武器調達はそれほど難しくありません」(フランス在住の元外人部隊兵士)

長年、移民を受け入れてきたフランスには大勢のアフリカ系移民がいる。しかし、その二世、三世はそれほど恵まれた仕事もなく差別を受けているとの報道もある。

「だから、イスラム過激派のテロは今後も続くでしょう」(フランス在住の元外人部隊兵士)

では、テロリストは今後、何をターゲットにするつもりなのか? 前出の日本人コントラクターA氏が語る。

「イスラム国はネット上などで、警備の薄いところを攻撃しろと、しきりにHGTをたきつけています。しかも警察や軍の施設より民間を狙えと言っている」

TGV脱線事故くらい簡単に起こせる!

実際、今回の一連のテロも警官襲撃を除けば、新聞社、印刷所、ユダヤ系食料品店が攻撃対象だった。

「フランス政府は軍から1万人の兵士を民間施設などの警備に動員すると発表していますが、そのすべてを警備するのはとても無理です。また、対テロ警備に人員を割くと治安維持や犯罪抑止が疎(おろそ)かになり、社会不安が増大しかねません。

そもそも、空軍や海軍の兵士はFA-MAS自動小銃(フランス軍の制式自動小銃)の扱いに慣れていないのでテロ発生時にうまく対処できるとも思えません。どちらにしてもテロリストの思うツボでしょう」(前出・日本人コントラクターA氏)

前出の元外人部隊兵士も同じ意見だ。

「TGV(フランス版新幹線)を狙えば、一度に数千人単位を攻撃できる。TGVは過去に運転手の些細なミスで脱線したこともあるほどですからテロ犯が本気で狙えば脱線事故くらいは簡単に起こせるでしょう」

前出の日本人コントラクターA氏はこう警告する。

「第1次世界大戦後の1921年にイタリアの軍事学者ジュリオ・ドゥーエが『制空』というタイトルの本を出版しました。その中でドゥーエは、最前線の銃後で一般市民が暮らす町を航空機で戦略爆撃すれば、敵側は戦争の遂行が不可能になると指摘しています。アルカイダ、イスラム国は空軍を保有していませんが、その代わりにネットとLCC(格安航空会社)がある。

敵の銃後を戦略的に爆撃できなくても、ネットやLCCを利用して戦略的にテロを起こすことは可能なんです。つまり、現代のテロリストは“制空”できなくても市民を恐怖心で制する“制怖”は可能というわけです。欧米諸国による空爆にさらされているイスラム国とアルカイダですが、今回はその反撃としてフランスの銃後で“戦略テロ”を断行したと見るべきです」

なんとも恐ろしい時代になってしまったものだ。