アメリカの新たな中東戦略が発表された。それは「米軍が地元民を訓練してイスラム国と戦わせる」というものだ。
しかし、まったく同じやり方で生まれたのが、そのイスラム国であり、かつてのビン・ラディンだった。イスラム国の打倒に成功しても、また新たなテロリストを誕生させるだけではないのか?
その新たな「テロ輪廻」が、いかに魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界であるか。敵と味方が激しく入れ替わる状況が、いかにこの地においては「普通」のことかを現在進行中の事例で説明してみよう。
これからアメリカは、空爆から地上戦への兵力を投入して「イスラム国に奪われた土地を奪還する」第2段階に入ろうとしている(そこに「地元兵」も投入しようとしているのだ)。
しかし、その地上戦において、すでにイスラム国から国土を奪還している勢力がいくつかある。その強さは、今のイスラム国と互角以上。バグダッドの南や、最大の製油所の奪還に成功している。彼らは何者か?
「アサイブ・アフル・ハック(正義の結社)やヒズボラ、バドル旅団といった、シーア派の民兵組織です。彼らはどちらも筋金入りの反米テロ武装集団です」(国際ジャーナリスト・河合洋一郎氏)
「正義の結社」は、2006年の結成時から11年の米軍イラク撤退まで、米軍とイラク軍を相手に6000回以上もテロ攻撃を行なっており、この組織のリーダーらはアメリカからグローバル・テロリストに指定されている。一方の「ヒズボラ」も、アメリカ国務省のテロ組織リスト入りしている勢力である。
そしてもうひとつ、イスラム国との戦闘において、大進撃中の存在がいる。アメリカの長年の大敵、イランだ。
昨年9月以降、「対イスラム国」という共通の目的で、アメリカとイランはにわかに歩み寄りを見せている。だが、ここから話は複雑さを帯びていく。
天敵イランと歩み寄った負の連鎖
「イランは、革命防衛隊の特殊部隊をイラクに派遣し、対イスラム国戦闘を指導しているんです」(前出・河合氏)
中東での戦闘経験をもつ日本人コントラクター(民間軍事会社戦闘員)のA氏も、「そしてイラン特殊部隊は、正義の結社やヒズボラの指導もしているらしいのです」と語る。これが何を意味するか?
「イランと歩み寄ったアメリカは、結果的に自分たちがテロ組織と認定した武装集団の戦闘を支援していることになるわけです」(A氏)
それによって何が起きるか? 1980年代、アフガニスタンで戦っていた元傭兵の高部正樹氏が言う。
「共通の敵であるイスラム国がなくなれば、今度はアメリカと、いずれかのイスラム武装勢力の対決が必ず始まることでしょう」
ここでもアメリカは、図らずも「反米・過激派組織」を育てようとしているのだ。
「つまり、もしイスラム国を消滅させても、その後に第3、第4のビン・ラディンが登場して不思議はないということです」(高部氏)
どうあっても、「テロ輪廻」への突入がリアルに見えてきたーー。
(取材/小峯隆生)