「この風刺画について話すこと自体がイヤなんです。話題にすることで(世間の)イスラム教に対する印象がさらに悪くなってしまう。(転載本の)販売も今すぐやめてほしい」(都内在住の在日イスラム教徒)
「特に抗議行動などはしませんがムスリム(イスラム教徒)としては、預言者をバカにした絵が出回ること自体がよくないという気持ちが強いです。なんで(転載本を)出さないといけないのか理由がわからない」(NPO法人全日本パキスタン協会代表)
フランス新聞社「シャルリー・エブド」が襲撃され、警察官を含む12名の死者を出した事件から約1ヵ月。イスラム過激派を挑発し、事件の原因になった風刺画を転載した本『イスラム・ヘイトか、風刺か』が2月10日に発売された。
この本の出版に、多くの在日イスラム教徒が不快感を示している。発売前である6日、「在日パキスタン人協会」が抗議声明を出し、同書の版元である第三書館に対して発売中止を求めた。
また、イスラム過激派を刺激する可能性があるとして、警視庁は第三書館の警備をする方針を固めた。
そうして迎えた発売当日、都内の書店を大型店舗中心に10軒ほど回ってみたのだが…転載本はどこにも置いてない。その理由を書店員に聞くと「2週間前まで入荷を予定していたが、一連の騒動もあり、店頭に置くのは控えた」とのこと。
一部の書店を除くと基本的には注文のみの受け付けで、今後も棚に置く予定はないそうだ。また「お客の安全のため、注文も受け付けていない」という書店もあった。
一方、第三書館の本社が入っている都内のビル周辺には5、6人の警官が警備に当たっており、車道には警視庁の人員輸送車とワゴン車の2台が常駐していた。警官によると「朝9時から深夜まで警戒に当たる」という。詳しい動員人数やいつまで警備するのかといった質問にはコメントを拒否された。
『シャルリー』風刺画には批判的
さて、そもそもこの本の内容はいかなるものか。実物を手に入れたので紹介しよう。
『シャルリー・エブド』紙を中心に48点の風刺画を掲載、それぞれに和訳と短い補足説明がついている。転載された風刺画がおちょくっているのは、イスラム関係だけでなく、ローマ法王や仏サルコジ前大統領、スウェーデンのサッカー選手イブラヒモビッチなど様々。
ただ、預言者ムハンマドが描かれているとされる絵には顔部分にモザイク処理がかけられている。
同書は全体的に『シャルリー・エブド』の風刺画に対して批判的だ。例えば、序文にはこう書かれている(カッコ内は編集部による補足)。
「(シャルリー・エブドの風刺画は)ヘイト表現そのものでしかない。風刺の持つウィットもユーモアの香りも感じられない」
その一方で、
「事件の衝撃が大きかったために、かえってその原因となったマンガについて語られることが少なかった。日本のマスコミが萎縮して自主規制してしまったことも一因だ」
とも語り、風刺画を転載したことについては、
「マンガについて論じるのに、絵が出せないのでは話にならない、特にひとこまマンガは俳句同様に部分引用が出来ない。それでも、イスラム系読者に配慮して、預言者の顔の出し方に工夫した」
とつけ加えている。
何がヘイト表現にあたるのか議論するためには、その表現自体をきちんと読み込むことが必要という出版社の姿勢もわかる。
しかし、冒頭で在日イスラム教徒が憤ったように「風刺画の存在そのものが不快」という言葉も無視できない。
判断は難しい。