「フリーターや非正規社員にこそ、投資をしてほしい」と独自の論を展開する石田衣良氏

フランスの経済学者、トマ・ピケティが書いた『21世紀の資本』(みすず書房)がものすごいブームだ。

700ページを超える経済書なのに、世界で100万部のベストセラーとなり、日本でもメディアの見出しで目にしない日はない?ほど。先日、著者が来日すると引っ張りだこのまさに大フィーバーとなった。

この本は、日本を含む世界20ヵ国以上の税務資料を過去200年にさかのぼって分析し、資本主義社会は所得格差を拡大させる傾向にあると指摘したもの。

実際、日本でも戦後の一時期は縮まったものの1980年代以降は格差が広がり続けている。つまり、今後ますます「お金持ちはさらにお金持ちになり、貧乏人はさらに貧乏になる」ということだ。

なんとなくは気づいていたが、ここまではっきりデータで示されると、やはりショックだ。

なぜ格差が開くかといえば、労働者の給与が上がるスピードよりも資本家が持っている株や債券、不動産などによる収益率のほうが高く、そっちのほうが儲(もう)かるため

だから、ピケティは各国がそろって資産に税金をかけるべきで、それもお金持ちほど税金が高くなる累進資本課税が理想的と、その対策を講じている。

しかし、ピケティの主張に対し、ただ歴史的なデータを調べただけで体系的な理論がないと批判する経済学者も多い。また日本では所得上位1%を見る限り、アメリカほどは格差が広がっていないとの反論も出ている。

すると今度は、上位10%で見ればやはり格差は広がっているとの反論が。だが、その説に対しても「いや、上位10%となると大企業のサラリーマンも入ってくるわけで、これは中間層が豊かになっている証拠だ」との反論…。

お金持ちがやる気をなくすだけ?

そんな激しい「格差論争」を今、世界中で巻き起こしている『21世紀の資本』について、運命に挑む若者たちを描き続けてきた作家の石田衣良氏に聞いてみた。

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―『21世紀の資本』では「資本主義は格差を広げる」とされています。この「お金持ちはよりお金持ちになり、貧乏人はより貧乏になる」という指摘についてどう思いますか?

石田 これって、実は誰もが気づいていたことですよね。「頑張って働くよりも、株や不動産に投資したほうが儲かるんじゃないか」と。政権交代があった2012年の日経平均株価は8千円から1万円台でした。それが、今は1万8千円台です。この2年で2倍近くになった。しかし、この2年で給料が2倍になった会社は、まずないでしょう。

これはわかりやすすぎる例ですが、ピケティが言っていることも、やはり真実だと思います。

―では、資本家と労働者の格差が広がっていくのは仕方がないと。

石田 いや、格差が広がることに関しては、なんらかの手を打たないといけない。ただ、その対策はピケティが言っている「高額所得者の税率をもっと上げる」とか「資産に税金をかける」ということではないと僕は思うんですよ。

例えば、日本の高額所得者(全体の1%といわれている)の税率を今の45%から70%にしたとしても、税収で増えるのは数千億円単位です。しかし、消費税を1%上げると2兆円になる。

高額所得者の税率を高くすると懲罰にはなるけれど、財政的にはなんのプラスにもならない。ただ、お金持ちのやる気をなくすだけです。

それに「国際的な資本累進課税(世界中の国で資本に一律に税金をかける)」が理想と言っていますが、これは10年、20年でできることではない。現実的ではありません。

自分も投資する側に行ってみればいい

―では、どうしたらいいんでしょうか?

石田 ピケティが「投資する側のほうが儲かる」ということを証明したのなら、「じゃあ、自分もそっち側に行こう」と思うことですよ。

自分は投資とは無関係だと思っているかもしれませんが、実は世界のマーケットの主役のひとつになっているのは、皆さんの年金です。

公的年金の積立管理・運用をしている「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」は、約130兆円を国内外の債券や株で運用しています。

ですから、投資は一部のお金持ちが稼いでいるわけではなくて、実は皆さんが月々積み立てているお金が世界中を巡って、例えば中国の株を上げたり、中東の株を下げたりしているわけです。

だとしたら、投資家が悪で労働者が善だという単純な二元論で語ることができなくなってくる。

それに、自分のお金が他人に運用されているのなら、実際に自分でもやってみたいと思いませんか?

●この続き、後編は明日配信予定!

■石田衣良(いしだ・いら)1960年生まれ、東京都出身。1997年、『池袋ウエストゲートパーク』(文藝春秋)でデビュー。2003年、『4TEEN』(新潮社)で直木賞受賞。シリーズ最新作は『憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI』(文藝春秋)

■週刊プレイボーイ10号「石田衣良が釘をさすピケティブームと格差」より

(取材・文/村上隆保 撮影/本田雄士)