山腹に雪が積もった阿蘇山「中岳火口」の上空へ南側から接近。北側の飛行中には、白煙に交じった細かい火山灰が、撮影のためにドアを外した機内にも吹き込んできた 山腹に雪が積もった阿蘇山「中岳火口」の上空へ南側から接近。北側の飛行中には、白煙に交じった細かい火山灰が、撮影のためにドアを外した機内にも吹き込んできた

阿蘇山(熊本県)や桜島(鹿児島県)など、活火山の多い九州。そこに異変が起きている。

もしかすると、数万年ごとにこの地で発生する九州を消滅させるほどの破壊力を持った“カルデラ破局噴火”が迫っているかもしれないのだ。本誌は現地に飛び、陸と空から調査した。

(前編はこちら→http://wpb.shueisha.co.jp/2015/03/02/44282/

■霧島、桜島、阿蘇で破局噴火の前兆が…

そもそも「カルデラ破局噴火」とは一体なんなのか? この噴火は深いマグマだまりが突発的な大爆発を起こし、短時間のうちに直径数十kmもの陸地や海底の岩盤を粉砕し、高温の火山噴出物となって空中へ噴き出す。それが巨大な「火砕流」と化して、数百kmもの範囲へ広がっていく。

火山研究者の石黒耀(あきら)氏が火山災害シミュレーション小説『死都日本』で描いた「霧島火山群」のカルデラ破局噴火では、宮崎市、鹿児島市をはじめ南九州の各都市が厚さ数十mの火砕流に覆われ、400万人が犠牲となる。これは決して絵空事ではなく、約30万年前に実際に起きた現象を現代に当てはめた科学的シミュレーションなのだ。

九州では、このカルデラ破局噴火が、8万5000年前頃(阿多[あた]カルデラ)から6300年前頃(鬼界[きかい]カルデラ)にかけて、少なくとも4ヵ所で発生。地図を見ればわかるように、それらは「霧島火山帯」の上に南北一列に並び、すべてのカルデラの中に今も現役活動中の火山がたくさんある。

つまり、九州の5ヵ所の巨大カルデラは、遠い昔に終わった火山活動の残骸(ざんがい)ではなく、いつまた超巨大噴火が再発してもおかしくはない「起爆剤=マグマだまり」を抱えているのだ。

しかも、そのマグマだまりが最近になって明らかにパワーを強めてきた。桜島のある姶良(あいら)カルデラの海底下では、すでにマグマだまりが満杯状態になり、大正大噴火から現在までに海底全体が約1.5mも上昇した。

また霧島火山群(加久藤[かくとう]カルデラ)でも、ここ4年間でマグマだまりが異常膨張を続けてきた事実が国土地理院の精密GPS観測でわかった。

つまり、2011年の霧島山・新燃岳(しんもえだけ)噴火と、今回の桜島噴火は、もしかするとカルデラ破局噴火の接近を告げるシグナルかもしれないのだ。

阿蘇山噴火も危機の前兆?

さらにもうひとつ、カルデラ破局噴火の再発の可能性を示唆しているのが、この30万年間で4回の超巨大噴火を繰り返してきた、熊本県の「阿蘇山」である。

霧島火山帯と大山(だいせん)火山帯の接点に広がる「阿蘇カルデラ」の「中岳火口」でも、昨年12月24日から爆発的噴火が始まり、今年1月12日には桜島と張り合うように真っ赤に燃えさかる大量のマグマを噴き上げた。

その中岳火口の現状を確認するため、本誌は2月8日にヘリコプターを使い空中取材を行なった。

中岳上空500mから1kmの高度を旋回しながら様子をうかがうと、楕円(だえん)形(約600×400m)の火口全体のうち約半分の面積を占める第1・第2火口から水蒸気成分の多い白煙が激しく噴き出しているのがわかった。そして、噴煙の合間に今回の噴火で姿形を変えたと思われる内部地形が見えた。

特に中岳の第2火口は、昨年12月前半までの衛星画像には「火口湖」が映っていたが、今は水蒸気爆発で消滅したように見えた。

第1火口内部は白煙が多すぎて真上を横切っても見通せなかったが、その噴出の勢いから推測すると、以前よりも格段に大きな火道が口を開けたのだろう。もしかすると今回の噴火で第1・第2火口を仕切る火口丘が破壊され、ふたつが合体した大きな新火口が出現しているのかもしれない。

マイナス5℃という寒さの中、中岳上空飛行を終えてから石黒氏に感想を聞くと、

「今のところ火口底の位置は噴煙に邪魔されて不明ですが、目を凝らしてもマグマの火影らしきものは見えなかったので、火口底はかなり深い場所に下がっているようです」

だが今回の噴火活動が始まって以来、阿蘇カルデラの地下では活発なマグマの動きを示す火山性地震が続いている。従って、今の噴煙がすぐに止まるとは考えにくい。

この阿蘇山もまた、カルデラ破局噴火の活動シーズンに突入した可能性があるのだ。

過去、火山流は川内原発まで到達

■川内原発は火砕流で埋め尽くされる!

では、霧島火山帯でかつて起こった破局噴火によって、どのような被害が起こったのか? 石黒氏が解説する。

「2万2000年前頃の姶良カルデラ噴火を例にとれば、最初の一撃で富士山2個分にあたる深さ10km、直径約20kmの岩盤が吹き飛び、その後も1メガトン級の核爆弾を毎秒100発爆発させるほどのマグマ熱量が実に5時間にわたって噴出し続けたと思われます」

スケールが大きすぎて想像もつかない破壊力だが、この大噴火による推定量4000億立法メートルの「超巨大火砕流」は四方八方に広がっていった!

「この4000億立法メートルという量は、1991年に発生した雲仙・普賢岳火砕流(100万立法メートル)の約40万倍の規模で南九州の標高300m以下の場所をほとんど覆い尽くしました。その厚さは姶良カルデラの縁にあたる今の鹿児島市や霧島市で数十m、それ以外の南九州地域でも10mほどに達したことが地層を調べてはっきりとわかっています」(石黒氏)

この火砕流、「入戸(いと)火砕流」と呼ばれているのだが、これが最近、社会的注目を集めている。というのも、姶良カルデラから約60km北西の「川内(せんだい)原発」の所まで、この時の火砕流が到達していたからだ。

鹿児島湾北部と川内原発の間に横たわる山地は、高くても標高300m。そのため、毎時数百㎞の初速で広がった入戸火砕流は楽々とこの山地を乗り越えた。そして数百℃の高温状態を保ったまま薩摩川内市の海岸地帯に襲いかかった。その痕跡が地層に残っているのだ。

川内原発の南側約2kmの寄田(よりた)地区には、古い火山堆積物層を農地開発した際に地層が露出した場所がある。約7m高のこの「露頭」から土砂を採取し石黒氏が観察したところ、やはり微細な火山ガラス片と軽石を大量に含む入戸火砕流の痕跡が見つかった。

九州電力も、この寄田露頭が火砕流堆積物だと認めているが、川内原発敷地内まで火砕流が到達したかどうかは不明だとしている。だが、原発施設すぐ北側の「川内火力発電所」を海側の防波堤から観察すると、寄田露頭とまったく同じ地質の小山を切り崩す敷地整備工事が行なわれていた。

「原子力規制委員会」は、〈1万年に1回ほどの発生確率の南九州カルデラ噴火と火砕流が、この先30年ほどの期間に再発する危険性はゼロに等しい〉と判断し、川内原発が新しい規制基準に適合していると結論づけた。

九州全体に迫る危険

しかし、九州の火山災害を時間幅だけの確率論で片づけるのは、あまりにも非科学的で愚かなことだ。1万年に1回の発生周期などまったく説得力はなく、むしろ九州で進行中の火山活動の強まりを見れば、30年のうちに川内原発がカルデラ破局噴火にのみ込まれる確率を上方修正すべきだ。

その時、火砕流堆積層を削って建てられた川内原発は再び高温の灰の丘に埋め戻される。そうなれば、外部電源も冷却機能もへったくれもない。福島第一原発事故に加えてもうひとつ、人類が経験したことがない原子力災害が誘発されるのだ。

問題なのは巨大カルデラ噴火だけではない。規模は小さくても、十分に“破局的”な火山噴火は数多く九州各地で起きてきた。

例えば、4600年前頃に霧島火山群の「御池岳」で起きたカルデラ噴火でも、約30km東の丘陵地帯(宮崎市田野町)に栄えていた日本最大規模の縄文都市が一瞬で滅びた。この「本野原(もとのばる)遺跡」は厚さ70cm~1mの火砕流堆積層の下に埋まり、平安時代までの約3千年間、無人の雑木林だった。

もっと年代が近い例では、阿多カルデラの「開聞岳」も約3千年前から1千年前にかけて6回の爆発的噴火を繰り返し、そのたびに薩摩・大隅半島地域の古代社会は火砕流にのみ込まれ、厚さ数十cmの火山灰層の下に葬られた。

このレベルの火砕流が現代の九州で再発しただけで多数の死傷者を伴う巨大災害は避けられない。仮に原発施設を包み込む火山堆積物が10cm程度だったとしても、それで九州はジ・エンドだろう。

今、火山活動の不気味なパワーアップは、九州のみならず日本列島全体でも同時進行している。だがやはり鹿児島、熊本のカルデラ噴火が九州を消滅させるほどの壊滅的ダメージを及ぼすことは間違いない。

(取材・文/有賀 訓 撮影/吉留直人 撮影協力/(有)ジェットヘリサービス[阿蘇市])