1匹に対して、この人だかり。メディアスクラム状態に「彼は傷ついた遺族なんだぞ!」と代弁したい気持ちも… 1匹に対して、この人だかり。メディアスクラム状態に「彼は傷ついた遺族なんだぞ!」と代弁したい気持ちも…

葛西臨海水族園(東京都)の人気者、クロマグロがピンチを迎え、話題になったのが昨年末のこと。それから3ヵ月以上経った今も原因不明、そしてついに絶滅カウントダウンーー。

カツオなどと165匹で回遊する巨大水槽のブースは1989年の開館以来、水族園のメイン人気で年間150万人もが来場するという同園の目玉だった。ところが昨年11月まで69匹いたクロマグロに異常行動が見られるなど次々と不審死…24日にはとうとうラスト1匹と完全孤独状態に。

実は、「週プレNEWS」ではこちらもプライベート・仕事ともに孤独化している記者・タケダ(男・27歳)が、まずクロマグロ2匹となった21日に水族園を取材していた。その日まではまだ微笑ましい光景も見られたのだが…。

* * *

「ま、まぶしい」――。初めて降り立つ水族園は、深夜の新宿で毎晩のように飲み歩く生活をしてきた記者には明るすぎた。葛西“臨海”というネーミングだけあって水族園を囲むように海が広がっており、太陽の光が海に反射して眩しい。さらに、水族館がある公園にはカップル客が多く…男性ひとりという姿は、入園して外に出るまで皆無。

まず館内に入ると、すぐにクロマグロのイベント用の施設があるのだが、水槽はもぬけの殻! 前に立てかけられた看板にも「こちら側では観察ができない」とある。最後の2匹も孤独死してしまったのか!…と係員の方に聞くと、「奥の水槽に移しています」とのこと。

「2匹に気を遣って引きこもらせたら逆に悪循環では!?」と余計な心配をしつつ、奥のクロマグロブースへ向かい驚いた。マグロには、先頭に1匹が立ちそれについていく形でグルグルと泳ぐ“回遊”の習性があるが、全長約2mという巨大な1匹がもう1匹を従えて泳ぐ様は、むしろどこか堂々として見えるではないか。

また、売りの群遊も見られないため、さぞかし客足も遠のきガラーンと寂しい光景かと思いきや、「報道の影響は特になく、お客さんの増減はほとんどありません。逆にクロマグロの水槽の前で写真を撮っていく人は増えています。今回の件に関して、応援の言葉もいただけたりして心強く思ってます」(水族園関係者)という。

海外でも話題でほんわか気分も…

 二匹で寄り添っている姿も微笑ましかったが… 二匹で寄り添っている姿も微笑ましかったが…

ニュースになったせいで逆に関心が高まった? そこで2匹を目あてに来たという都内に住む男女に話を聞いてみると、「残った2匹をふたりで観ていると、なんか(カップルであることを)確認できるというか…」。羨(うらや)ましいなあ~。

ちなみに、残されたクロマグロはカップル(オスとメス)なのだろうか。だったらそれはそれで“ふたりの愛の巣”みたいで幸せそう…。というワケで、前出の関係者に伺うと「マグロのオスとメスの区別は飼育員でも難しく、残った2匹の性別もわかっていません。ただ夏前の産卵期になるとメスが群れの先頭に立ち、それをオス数匹で追いかけるという習性があるのでそこで判断しています」

なるほど。同性でも異性でも、ふたり寄り添って生きているのはいじらしいぞ! 続いて、外国人観光客の姿もちらほら…日本語を喋れるという男性に来園理由を聞くと、「アメリカでネットニュースを見てきました。日本の旅の予定を変更して来たんですよ」

なんと!クロマグロ問題は海を渡ってグローバルな話題となっていたのか。ちなみにこの後は「サシミ」を食べるというが…。残ったクロマグロ2匹、海外にまで有名で写真を撮られまくるなんてスターじゃん!「なんか、ちやほやされてていいな~」とノンキにほんわか安心しつつ、記者は編集部に戻り、記事も書き終えた後日…。

残されたパートナーの1匹が亡くなったーー。

24日の午前8時頃、水槽に沈んでいたところを飼育員が発見したとのことだが、“解剖の結果、背骨が折れた状態”だったという。

「通常の死因としても珍しくはありません。おそらく、水槽に身体をぶつけてしまったのでしょう。しかし気がかりなのはやはり、なぜこのような異常行動を取ったかです。先日見つかったウイルスの問題など複合的な原因は考えられますが、“群れ”で行動できなくなっていることによるストレスもあるのではないかと」(前出・水族園関係者)

最後の1匹への願い

人間で例えると、孤独に耐えきれず精神に異常をきたして自殺してしまった…みたいなこと? そこで記者は再度、残る1匹を励ますべく葛西へ向かった。相変わらずカップルがイチャつく他の魚のブースは無視して、彼(彼女?)の元へ。

「あ、ホントに1匹しかいない…」。前回と同じ大きな水槽にぽつんと独り、さすがに1匹で回遊しても、誰もついてこないので迫力もない。

だが、その前には人だかりができ、一般客はもちろん、マイクを持ったテレビレポーターと一緒にカメラマンらマスコミにもバシバシ撮られている。これはこれでメディアスクラムなのでは! ストレスになるだろ、絶対!?

さらに、幼稚園の遠足できたのだろう園児の罪のない叫びが追い討ちをかける。「なんで1匹しかいないの~!」「釣られて、食べられちゃったんだよ~」「く○寿司(回転寿司チェーン店)で食べれる~?」――無邪気な子供たちの会話が記者の心にグサグサッと刺さった。

“ラストサムライ”クロマグロくんの目尻や口の端は、以前より心なしか垂れており、もの寂しげな印象。このままでは彼も早晩…。いい加減、仲間を増やしてあげれないんですか!? だが、「原因が特定できない以上、まだなんとも…現在、試験的に魚を増やすことは検討中ですが、具体的にはまとまってません」(前出・関係者)

「生き残って、俺の希望になってくれ!」…記者の心からの願いが届いてほしい。

(取材・文・撮影/週プレNEWS)