『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソン の挑発的ニッポン革命計画」を連載中のマルチな異才・モーリー・ロバートソンが語る。
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先日、8.6秒バズーカーの「ラッスンゴレライ」は在日朝鮮人による日本人ヘイトだ、というデマがネット上で拡散されました。いわく、8.6は「8月6日」、バズーカーは「原爆」、さらに落(ラッ)寸(スン)号令(ゴレ)雷(ライ)は米軍が原爆を落とす際に使う命令を意味する。在日がメディアをコントロールして、日本人ヘイトを浸透させようとしている…。いわゆる陰謀論の一種です。
9・11はアメリカの自作自演。東日本大震災は地震兵器「HAARP(ハープ)」による人為的な災害。歴史上の出来事はすべてユダヤ人が決めている―こうした陰謀論は荒唐無稽(こうとうむけい)ですが、放置していると多くの人々に浸透してしまうこともある。
現代における陰謀論は、ソーシャルメディア上で「これが真実だ!」「巨悪と戦おう!」と、雑な情報が流布し始め、どんどん増幅していく。最初は薄味の浅漬けでも、拡散されるうちにいろいろな“根拠”が提示され、いつの間にか奈良漬けの10倍くらい濃くなって、最後は口に入れただけでヤバい代物になる。でも、耐性のない人は「おいしい!」と、意外と受け入れてしまう。
例えば、いま10歳の子供たちに「広島・長崎に原爆が投下されたという話は捏造(ねつぞう)だ。アメリカと日本を仲違いさせるための陰謀だ」というネタを流し続けたとしましょう。たぶん2020年には、15歳になった彼らのうち、それなりの数が陰謀論を信じていると思う。
原爆投下直後、「放射能で多数の死者が出た」と批判されたアメリカ政府は「爆風では死んだが放射能とは関係ない」と因果関係を否定した。これは歴史的事実です―もちろん、責任を逃れるための詭弁(きべん)ですが。
でも、当時の公文書や新聞記事から都合のいい部分だけを抜き出し「ほら、原爆による死人はいない」という論の根拠として使うこともできる。こういう手口でほかの“証拠”を持ってくれば「原爆投下そのものが存在しなかった」と言うことさえできる。
人間には、物事を単純化したいという欲求がある
陰謀論が拡散するエネルギーは「世の中は善と悪に分かれていて、どこかに世界を操る巨悪がいる」という単純なストーリーの魅力です。巨悪と戦う姿勢は共感を得やすい。
政治の世界でも、政敵を巨悪化させて支持を得るポピュリズムの手法は一種の陰謀論だし、ジャーナリズムの世界でも自身の有料メルマガなどのコンテンツに誘導するために陰謀論を利用する人がいる。
リテラシーのある人なら、すぐデマとわかるけど、引っかかった人はなかなかそこから出てきてくれない。論理的な反証を提示しても「真実を隠蔽(いんぺい)するための圧力だ」などと言って、聞く耳を持たない。
人間には、物事を単純化したいという欲求がある。眼科検診で使われる「c」のような形が“事実”だとすれば、ついつい隙間を勝手に閉じて輪にしたくなる。でも、その輪はもはや事実ではない。
小さい「c」は、遠くから見たら輪に見える。見極めるにはそれなりの視力と根気が必要です。でも、それを怠けたら簡単に「輪=陰謀論」にのみ込まれてしまう。単純な“気持ちのいい話”に飛びつく前に、一度立ち止まって考えてください。自分だけが真実を知っている…なんて、そうそうある話じゃないよ。
●モーリー・ロバートソン(Morley Robertson) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。レギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『Morley RobertsonShow』(Block.FM)、『所さん! 大変ですよ』(NHK)など。陰謀論より面白い、ラッスンゴレライをDJプレイした動画がネットで絶賛拡散中。検索してね!