「汚名を雪(そそ)がなければならない。だから命のある限り、再審請求をし続ける。開かずの門でも、死ぬまで叩き続ける」と語る小嶋氏 「汚名を雪(そそ)がなければならない。だから命のある限り、再審請求をし続ける。開かずの門でも、死ぬまで叩き続ける」と語る小嶋氏

「震度5強程度の地震で倒壊する恐れがある」として、世間を震撼(しんかん)させた「耐震偽装マンション・ホテル」事件が発覚したのは、10年前の2005年11月のこと。

同事件では、耐震偽装行為を繰り返していた一級建築士を始め、建設会社社長、民間の建築確認検査機関社長、不動産会社社長ら計8人が逮捕された。

当時、語られていた“犯行の構図”は「建築士、建設会社、不動産会社が結託し、耐震偽装マンションを建てて売っていた」というもの。警察や検察、そして報道陣が考えていた事件の“首謀者”は耐震偽装マンションを販売した「ヒューザー」の社長・小嶋進(おじま・すすむ)氏だった。

が、実際は違った。後の裁判で同事件は、姉歯秀次(あねは・ひでつぐ)一級建築士の単独犯行だったことが明らかになる。本件の「耐震偽装」で逮捕されたのも姉歯氏のみ。つまり、マスコミを通じ盛んに喧伝(けんでん)されていた“犯行の構図”は、全くのデマだった。

にもかかわらず、とばっちりで逮捕された者たちの名誉は、今も毀損(きそん)されたままだ。その最大の被害者は、会社を潰(つぶ)され、裁判でも詐欺罪で有罪とされ、地位も名誉も奪われた「ヒューザー」元社長の小嶋氏だろう。

その小嶋氏が、事件から10年が過ぎた今、「反撃の書」を刊行した。「詐欺容疑は警察と検察の証拠捏造(ねつぞう)によるもの」として自身の無実を訴えつつ同事件で警察や検察、報道機関、裁判所が犯した失態を暴露。その責任を真正面から問うものだ。

―書き始めたのはいつから?

小嶋 獄中にいた頃からです。

―この本で読者に一番伝えたいのはどんなことですか?

小嶋 警察や検察が暴走した時、その歯止めとなるべき裁判所が全く当てにならないということです。私が逮捕された容疑は「詐欺」です。それも「偽装をさせてマンションを売った」からではなく、耐震偽装の発覚後も「マンションを引き渡して残金を受け取った」から、というもの。この容疑自体が耐震偽装の「小嶋首謀説」を完全に否定しているわけです。

しかも私は、耐震偽装が発覚した直後、部下たちに対し「契約が終わっているもので、まだ引き渡していないものに関しては解約する。手付金や購入代金を返金するので、その準備を進めておくこと」との指示を出していました。その録音データを裁判所に証拠採用するよう申請したところ、検事は大声を張り上げ、裁判官まで威嚇(いかく)しながら証拠採用に猛反対したのです。その理由は「裁判官が判断を誤る恐れがあるから」というものでした。

私の無実の証拠でもある録音データはこうして軽んじられ、その代わりに証拠採用されたのは、私の指示に反して問題のマンション物件を客に引き渡していた、私の部下の証言でした。この部下は私の指示で引き渡したと証言し、私は「詐欺」容疑に問われたわけです。

詐欺の「実行犯」が逮捕されない

―まるで、検察官が訴訟を指揮しているかのようですね。

小嶋 そうなんです(笑)。昨年秋、小型トラックでないと積めないほど大量の書類が築地警察署からドサッと返されてきたんです。返ってきた書類の中には、耐震偽装されたマンションの契約書類のファイルもありましたが、改めて見てみると、姉歯氏が耐震偽装した問題の「構造計算書」は工事請負契約書のどこにも入っていない。契約書には構造計算に関するコメントは一言も書かれていませんでした。

そもそも構造計算書なんて、発注者である施主(私)は関わらないものだし、姉歯の事件が起きるまで一度も見たことがなかった。我々、施主にとって「構造計算」は専門家に任せっきりのブラックボックスのようなもの。それでも警察は「詐欺」だと言うわけです。

警察に押収された書類の中には「まだ返せないものがある」というので、私にとって「事件」はまだ何も終わっていません。

―刑はとっくに最高裁で確定しているのに、まだ押収されたままの書類があるんですか?

小嶋 警察や検察は、姉歯氏による耐震偽装行為とその危険性を私が知ったのは2005年の10月27日午後2時(民間建築確認検査機関のイーホームズとの会談直後)だと言い張っています。そしてその翌日に問題のマンションが住民に引き渡されていた。その肝心の05年10月の「取締役会議事録」と「稟議(りんぎ)書綴(つづ)り」がいまだに返されていません。警察や検察にとって、よほど都合の悪い内容が書かれているのではないでしょうか。

でも、返された書類を精査したことで、事件発覚前月のヒューザーの預金残高がわかりました。9月30日の中間決算時点で28億円です。それでも警察は倒産を恐れた私がマンションの販売残金4億円を騙(だま)し取ったという話を創作し、私を逮捕しました。28億円も現金があるのに詐欺という危険を冒してまで4億円を騙し取らなければならない理由なんてないでしょう。

不思議なことに警察は、「詐欺」の実行犯である私の部下たちを逮捕していません。私は詐欺を命じたとして逮捕されました。では、誰がそれを実行したのか。通常の詐欺事件であれば、命令した者だけでなく実行犯も逮捕されるはずです。

私の家族も耐震偽装のマンションに住んでいる

―小嶋さんの判決は「懲役3年、執行猶予5年」です。執行猶予期間はいつまでですか?

小嶋 来年の12月です。でも、執行猶予がなくなったとしても汚名は全く雪(そそ)げない。実は私も、耐震偽装のあったマンションを買っているんです。そんな「詐欺師」がいるでしょうか? そしてそこには今も私の家族が暮らしている。

もちろん、マンションの耐震補強は済んでいます。でも、つい1週間ほど前の話ですが、私の子どもが友だちの父親から、「ああ、これが鉄筋を抜いて安く売ったマンションだね」

と言われたんだそうです。

この話を子どもから聞いて、今でもあの事件に関して多くの人たちは誤解していると改めて分かったので、再審請求をするしかないと思いました。命のある限り、再審請求はし続ける。開かずの門だろうと、死ぬまで叩き続けるつもりです。

(構成・撮影/明石昇二郎)

小嶋 進(おじま・すすむ) 1953年生まれ、宮城県出身。元・実業家。専有面積100平方m以上のマンションを、首都圏に、かつ庶民でも買える価格で供給し、注目を集めた中堅不動産デベロッパー「ヒューザー」の元社長。2005年に発覚した、いわゆる「耐震偽装事件」(本書で言うところの「姉歯事件」)で詐欺容疑に問われ、2006年に逮捕、300日以上、身柄を拘束される。2011年、最高裁で懲役3年、執行猶予5年の刑が確定した後も、無実を訴え続けている

■『偽装「耐震偽装事件」ともうひとつの「国家権力による偽装」』 ((株)金曜日 700 円+税) 2005年11月に発覚し、世間を震撼させた「耐震偽装マンション」事件。本件の「耐震偽装」に全く関与していないにもかかわらず有罪とされ、地位も名誉も奪われた筆者が、警察や検察、報道機関、裁判所が犯した失態をうやむやにさせまいと、その責任を真正面から問う「反撃の書」。本書はkindle版のみで4月30日発売予定