高島容疑者に女性を斡旋していたというマリア（４３歳）。高島容疑者の写真を見せると、かつての記憶がよみがえったのか、涙を流し始めた
４月８日、「中学元校長がフィリピンで１万２千人以上を買春」という衝撃のニュースが駆け巡った。
逮捕された横浜市の中学元校長、高島雄平容疑者は１９８８年から３年間、マニラの日本人学校中学部で理科の教員をしていた。
当時から買春は始まっていたと見られているが、それでも「１万２千人」という数は前代未聞。そこで、フィリピンを拠点に活動する「開高健ノンフィクション賞」受賞作家、水谷竹秀氏に現地での高島容疑者の足取りをたどってもらったーー。
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フィリピン当局によると、高島容疑者がマニラ日本人学校での勤務を終えて帰任後、１９９３年の年始から家宅捜索される直前の２０１４年１月まで、フィリピンへ渡航した回数は計６４回（日本の報道では６５回となっているためフィリピン側で記録漏れがあったとみられる）。
６４回は基本的に夏休み、冬休み、春休み、ゴールデンウイークの期間中に渡航しており、滞在期間は１週間から２週間程度が多く、長い時で３７日、短い時で４日だった。
学校が夏休みに入った７月２１日に成田空港を飛び立った年もあり、よほど待ちきれなかったのか。直前の期末テストで生徒が勉強にいそしんでいる最中に高島容疑者の心はひと足先にフィリピンへ飛んでいたようだ。
２００２年９月３日にマニラから帰国した記録もあり、学校を休んでまで滞在したのか…。これらを合わせた総滞在期間は約８５０日だった。
問題はマニラ日本人学校に赴任中、どの程度の頻度で買春をしていたかだ。
高島容疑者は赴任期間中に夜出歩いていたというから、仮に週４日ペースで遊んでいたとしたら単純計算で１ヵ月に１６日、赴任期間中の３年間で５７６日になる。帰任後の総滞在日数を合わせると、彼がこれまでに買春した総日数は約１４００日と推計できる。「１万２６６０人を買春した」という供述に基づけば、１日平均９人から１０人は買春しなければ計算が合わない。
マリアは「愛しているし親友だ」と涙した
この数字の“達成可能性”について、マリア（高島容疑者に女性を斡旋した業者のひとり）に事情聴取したフィリピンの国家捜査局（ＮＢＩ）捜査官はこう語る。
「マリアが高島容疑者に紹介したのは１日ふたり。マリアによるとその後もホテルに女のコ３人が入っていくのを目撃したという。それに高島容疑者はアンヘレス市でも女のコを調達していた」
アンヘレス市はマニラから北に車で約１時間半かかり、ゴーゴーバー（ビキニ姿の売春婦がポールダンスをする連れだしバー）が集結する通りがある。高島容疑者はそこで出会った斡旋業者からも紹介してもらっていたようだ。捜査官は続ける。
「だから１万２千人という数字は可能だろう。しかし、私はＮＢＩに１８年間勤めているが、こんなに大量の女性を買春した事件は前代未聞だ。でも全員と性交したわけではなく、指だけや口づけ、あるいは写真撮影だけの時もあったのではないか」
ＮＢＩによると、高島容疑者は２０１４年元日に１５歳ぐらいの少女ふたりと淫（みだ）らな行為をし、その様子をデジタルカメラで撮影した疑いだ。場所は高島容疑者が定宿にしているホテルから徒歩１０分程度の安宿（１泊約５００ペソ）。定宿は未成年女性の出入りが禁止されているため相手が未成年か否かでホテルを使い分けていたようだ。
マリアは貧困層の出身で、今は路上生活者。高島容疑者と出会った当初は買春の相手だったが、年を重ねるうちに若い女性を要求され、何人も斡旋してきた。女性ひとり当たり１千ペソが高島容疑者から支払われ、そこからコミッション（斡旋料）として２５０ペソを受け取る。
長年、そんな関係を続けてきたマリアにとって、高島容疑者は「いい客」であると同時にある種の「信頼」も芽生えていたのかもしれない。マリアは私の取材にこう答えた。
「高島さんはケチな時もあったけど優しかった。私は愛しているし親友だと思っている。だからＮＢＩの事情聴取を受けたの」
高島容疑者が日本で逮捕されたと聞いて涙を流したマリア。その裏にはそんな心の機微も見え隠れする。
●水谷竹秀（みずたに・たけひで） １９７５年生まれ、三重県出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。ウエディング写真専門のカメラマンや新聞記者を経て、ノンフィクションライターとしてフィリピンを拠点に活動中。２０１１年、『日本を捨てた男たち フィリピンに生きる「困窮邦人」』で第９回開高健ノンフィクション賞を受賞