「囲い込み」と呼ばれる不動産仲介業者の不正な手口が告発され、大きな話題になっている。これは不動産仲介業者が故意に物件の情報を隠すことで、その物件を独占的に販売。本来、売主と買主が得るはずだった利益をかすめ取ってしまうやり方だ。
4月13日、『週刊ダイヤモンド』のウェブ版『ダイヤモンド・オンライン』の告発記事が不動産業界に激震を与えている。しかし、このような不動産業界の実態を世間に暴露したのは、実はダイヤモンドの記事が初めてではない。
最初に“暴露爆弾”を投下したのは、アルティメット総研の代表である大友健右氏という人物だ。
彼が書いた著書『不動産屋は笑顔のウラで何を考えているのか?』では、囲い込み行為のほか、業界に蔓延(まんえん)する数々の不正な手口が明らかにされている。暴力的な地上げや土地転がしなど、とかくダークな部分が多い不動産業界の暗部を暴くことは大変な勇気が必要だ。
新しい不動産取引のモデルを提案して行動に移すなど、業界の革命児として注目を集める大友氏。彼に話を聞いてみると、報道以上に闇深い実態が明らかになった。
「売主と買主の双方から(手数料を)受け取る“両手取引”そのものは悪くありません。それ自体は合法な取引です。
問題なのは、買主側の客付不動産業者からの問い合わせをスルーして意図的に物件を放置し、売主に販売価格を大幅に下げさせる行為です。相場よりも価格を安くすれば、客付業者に頼らずとも簡単に買手がつき、両手取引が可能になりますから」
説明しよう。本来、物件の情報は、売主から物件を預かった“元付不動産”(物件の買主を探す仲介業者)が、レインズ(不動産流通機構)という機関に情報を掲出することで、全国の“客付不動産”(買主の依頼を受けて物件を探す仲介業者)が閲覧できる状態になる。
そのレインズの情報をもとに客付不動産業者は物件を探すのだが、一部の悪質な元付不動産業者は情報を掲載しても、広告も打たず、購入の問い合わせも受けず、物件を意図的に放置してしまう。
その結果、この物件は「売れない物件」となり、売主は大幅な価格変更を余儀なくされる。すると、本来の市場価格の水準よりも安いため、一般向けの広告を打っただけで買主を見つけることができるのだ。
放置されてきた明らかな違法行為
そうすることで、この元付不動産業者は“客付不動産業者に頼ることなく”売買ができるので、売主と買主の両方からの手数料を独占することができるという仕組みだ。しかし、その陰で売主は自分が知らないうちに大損をしているのである。
「宅建業法では、元付不動産は顧客(売主)の利益を代弁するのが役割であると定められています。売主の利益とはすなわち、なるべく高い販売価格で、可能な限り速やかに売却すること。塩漬けにした上で価格を下げさせることは、明らかに顧客を裏切る行為と言えます」(大友氏)
ウソをついて脅さなくても、最初から販売価格を安くするように売主を説得してから販売すれば、合法で両手取引を実現できるのでは?
「理屈ではそうですが、現実は違います。“元付不動産”と“客付不動産”、どちらが大変で、どちらが楽チンだと思いますか?
客付業者は、買主を探して初めて手数料を得ることができる。しかし、家なんて一生に一度かもしれない大きな買い物。買主を探すのは容易ではありません。そしてようやく見つけても、得られる手数料は“片手”(買主からの分)だけです。
一方、元付業者の顧客は地主です。多くの物件を持つ地主からは売買にしろ賃貸にしろ、繰り返しカモれるし、“両手”(売主と買主)の手数料も取れる。だから皆が元付の立場になりたいわけです」(大友氏)
元付にはどうやったらなれるのか?
「売り物件を預かることから始まります。よく皆さんのお宅のポストに、『このエリアで物件をお探しのお客さんがいらっしゃいます。ご売却をご検討ください』みたいなうたい文句のチラシが投函されていませんか?
どの業者も売り物件をゲットしたいので奪い合いです。いかにも買主がいるように思わせてすぐにでも売れそうな雰囲気を漂わせ、売主からの問い合わせを誘う。そして高い価格で売れそうな営業トークをして契約に持ち込むんです。
うまいこと言って専属契約(専属専任媒介契約など)を結んでからのんびりと塩漬けにして、価格を下げる手口なわけです。これは明らかに違法行為だと思いますが、最初から意図的であったかどうかの証明は難しいため、今まで表面化せずに放置されてきました。
大手不動産はもちろん、地元密着系の不動産業者でも、取り扱い物件数が多くて目先の手数料を追う必要のない業者では、このような囲い込みが常態化していると言っても過言ではない。全取引に対して99%も囲い込みをしている業者まであるのです。
ただ、ダイヤモンドの記事に挙げられていたT不動産に関しては、例外的にクリーンな会社なので、S不動産やM不動産とひとくくりにされるのは気の毒だなと思いましたね」(大友氏)
賃貸にも存在する業界の闇
大友氏によると「囲い込み」行為の実態は、より悪質化しているのだという。
「元付業者が売主から預かった物件を放置して、販売価格を下げた後が問題なのです。通常なら買主に売却して“両手取引”をゲットして終わりなのですが、最近はそうしない場合も増えている。
まず、相場よりも価格を下げた物件を付き合いのあるリノベーション業者(中古物件をリフォームして販売する業者)にいったん売却する。この時点で買主であるリノベーション業者と売主から“両手”の手数料が入ります。
そしてリフォームが済んだ物件の販売を再び仲介するのです。今度はリノベーション業者が売主になります。
物件を入手したときの価格が安いので、リフォーム済みとしても相場より安く販売できる。となると客付業者の手を借りることなく容易に買主を見つけることもできる。従って、売主であるリノベーション業者と買主から、再び“両手”の手数料を得られるわけです」(大友氏)
……ということは、ひとつの物件で4回も手数料が発生しているじゃないか!
こうした不動産業界の闇は、賃貸にも存在するようだ。
「宅建業法では、大家と借主が支払う仲介手数料の合計は家賃の1ヵ月分以内と定められています。つまり客付不動産が挟まる場合、元付不動産とそれぞれ0.5ヵ月分ずつしか得られない。これじゃ儲からないってことで脱法的な行為が慣習化しているのです。
まず、大家からは仲介手数料としてではなく広告料の名目で2ヵ月分徴収します。そして客付業者からの問い合わせには『もう内見の客が入ってるんで』などと突っぱねる。囲い込みですね。
不動産会社にとっては、借主がなかなか見つからなくても維持コストがかからないのでノーリスク。のんびりと借主が直接来るまで待ち、ダブルの仲介手数料を得られる“両手取引”にするのです。大家にとって空き家状態は家賃収入が途絶えるから死活問題なのに……」(大友氏)
大友氏の著書が発売された当時、不動産業界の利害関係者と思われる人物たちからの脅迫電話やいやがらせなどが立て続けにあったという。しかし、悪質な不動産業者と革命児とのバトル、ぜひとも革命児に勝利してほしいぞ!
(取材・文/菅沼 慶)