箱根山・大涌谷(おおわくだに)の様子がどうにも不気味だ。

4月26日に始まった火山性群発地震が一向に収まらず、5月5日には震度1の有感地震が3回発生。さらに噴気量が増し、山体膨張も止まらないため、気象庁は6日に「噴火警戒レベル」を箱根山では初の「2」(火口周辺規制)へと引き上げたのだ。

その結果、箱根ロープウェイは全線運休。箱根町の山口昇士(のぶお)町長は、「観光産業にとって非常に厳しい状況」と、苦しい表情で会見に臨んだ。

約3000年前に大噴火した大涌谷では、2013年2月と3月にも、直下に潜むマグマだまりの膨張を意味する群発地震が起きている。週プレとともに長らく地震火山災害取材を続け、当時も今回も現地取材を行なっているジャーナリストの有賀訓(あるがさとし)氏が語る。

「2年前の群発地震では最大震度5強の揺れを観測。今回も最初は同じ深さの震源(地下約2㎞)で有感・無感の地震が続いていましたが、5月5日夜にはマグマだまりに近い地下約5㎞で地震が起きたため、気象庁は噴火の可能性が高まったと判断したのです。今回は2年前よりも個々の地震規模は小さい半面、噴気の勢いが非常に強く、以前にはなかった噴出孔も数多く現れています」

実際、箱根各地へ温泉水を供給する大涌谷東側斜面の塔型装置からは、轟音(ごうおん)と地響きを伴う大量の高圧蒸気が噴き上がり、いかにも「これはヤバそう!」と実感させる。

さらに有賀氏によると、「今回はもうひとつ気になる異変が起きている」という。

「白い蒸気を吐く噴気孔以外の場所でも、2年前にはなかったかげろうのような空気の揺らめきが見られるのです」(有賀氏)

大涌谷が噴火した場合の被害は?

この現象について、火山災害シミュレーション小説『死都日本』著者で火山研究者の石黒耀(あきら)氏に聞いた。

「マグマが上昇するにつれて強まる“熱力”の影響で、大涌谷全体の地熱が急激に高まっている可能性があります。また、噴火が近づくと、地表に噴き出す火山性ガスの量と成分も変化します。それが無色透明でも空気と密度が違えば、かげろうのように揺らめいて見えるでしょう」

やはり、大涌谷では近々に噴火が起こる!? その場合、どんな被害が予想されるのか。

大涌谷にある「箱根ジオミュージアム」の展示資料によると、3000年前の大噴火では高度1万m以上の噴煙柱が立ち上がり、大規模な山体崩壊で今の大涌谷の地形がつくられた。また、その際の土砂が箱根カルデラ内部の河川の流れをせき止め、芦ノ湖を生んだ。石黒氏が続ける。

「箱根山の地質は富士山よりも古く、噴火の際には山体がより崩れやすい傾向がある。次の噴火でもカルデラ内外の地形が激変するでしょう。もし大規模な噴火が起これば、甚大な被害が心配されます」

実際、箱根山史上、最も巨大な噴火といわれる約6万6000年前の大噴火では相模湾沿岸から現在の横浜市内にかけての広い地域が火砕流で焼き尽くされたという。また、3000年前まで存在しなかった芦ノ湖の水が、巨大な水蒸気爆発を引き起こす恐れもある。もし本当にそんな事態になったら、もはや被害予想すら不可能だ。

■週刊プレイボーイ21号「ニュースマシマシ」より