国内150以上の動物園や水族館などで構成される「日本動物園水族館協会」(JAZA)が揺れている。スイスに本部を置く世界動物園水族館協会(WAZA)から突然、「除名する」との通告が舞い込んできたからだ。

「WAZAが問題視しているのは、和歌山県太地町(たいじちよう)のイルカ追い込み漁。WAZAの倫理規定に違反している上、日本の水族館が捕獲されたイルカを購入していると指摘。1ヵ月以内に状況が改善されないなら除名すると言ってきたんです」(JAZA事務局)

これには仁坂(にさか)吉伸・和歌山県知事が「世界からのいじめだ」と不快感を表明。追い込み漁で捕獲したイルカ約50頭を展示する太地町立くじらの博物館の桐畑哲雄副館長も、こう不満を口にする。

「太地町の追い込み漁は優れた捕獲法です。イルカを浅瀬に追い込み、ダイバーが両腕をイルカの腹部に差し込み、すくうようにして捕獲する。運搬もヒレが外に出る穴の開いた専用の担架を使うのでイルカの体に傷もつかない。網による捕獲より、ずっとイルカに優しい。なのに、追い込み漁は非人道的で、捕まえたイルカを購入すべきでないと言う。何度もそうではないと説明しましたが、結局、通じなかったということでしょう」

確かに、追い込み漁もイルカの購入も日本では合法だ。それをWAZAの論理でダメと言われても、日本側が納得できるはずがない。桐畑副館長が続ける。

「除名と言われると、日本が世界から否定されたかのように聞こえるかもしれないけど、そうではない。WAZA加盟国は欧米や豪州が中心でアジアの国々はさほど加盟していません。除名になっても、特に日本の水族館に影響があるわけではありません」

WAZAの指摘は日本いじめではない?

ならば、あくまで日本の立場を主張し、脱退覚悟でWAZAに抗弁するという選択もあり得るのかも―。

と思っていたら、動物園の受け止め方はちょっと違うようだ。関西地方のある動物園の職員がこうつぶやく。

「世界では自然界から捕獲するのでなく、なるべく人工的に繁殖させた個体を展示すべきという考えが主流。だから、アメリカではイルカショーのイルカも100%繁殖させたもの。海から捕獲したものではありません。欧州に至っては、イルカの飼育展示をしている水族館自体がない」

つまり、WAZAの指摘は世界の動物園・水族館のスタンダードで、決して日本いじめなどではないということ? 動物園の職員が続ける。

「ここでWAZAを脱退すれば、日本はいまだに野生の生物、動物を捕まえて展示する低レベルな国だと世界から評価されかねません。日本の動物園はすでに展示動物はほぼすべて繁殖させたものでまかなっています。ところが、水族館は今も展示生物は海から捕ってくればよいという考え方が根強い。

食文化に対する指摘なら当然反論すべきですが、今回は展示生物をどこから調達すべきなのかという問題だということを日本の水族館も冷静に考える必要があると思っています」

どうやら動物園と水族館ではWAZAの通告の受け止め方に温度差がある様子。WAZAの問いかけにJAZAはどう答える?

(取材/ボールルーム)