今年4月、「年収1075万円以上のスペシャリストには残業代を払わなくてよい」という法案が閣議決定された。
なんだか普通のサラリーマンには無縁の話に思えるけど…実はそうじゃない! 政財界は「残業代ゼロ」制度にあてはまる職種も、そして収入帯も大幅に広げようとしている!
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どんなに長時間働いても残業代が出なくなる? 通称“残業代ゼロ”制度を盛り込んだ「労働基準法改正案」が4月3日に閣議決定された。改正法が成立すれば、来年4月から施行となる。
この法案の柱のひとつが「高度プロフェッショナル制度」の創設。これは高度な専門的知識が必要な業務に就いている年収1075万円以上の労働者に限り、残業代も休日の割増賃金も支払わなくてもよいとする制度だ。
この制度について政府は「働いた時間ではなく成果で賃金を支払うことによって、個人が働く時間と休日を自由に決めることができる」と強調する。では、具体的にどのような人がその対象となるのか? 厚労省が作成した骨子案にはこう記されている。
「金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務等の職務に就いている人」
とはいえ、そんな専門職に就く予定もないし、そもそも年収1千万なんて一生ムリ! 自分とは無縁な話だーーそう思っているサラリーマンは少なくないだろう。だが、京都第一法律事務所の渡辺輝人(てるひと)弁護士は言う。
「法律ができてしまえば、なし崩し的に年収要件が引き下げられ、対象者は拡大されます。その根拠のひとつが『派遣法』改正の歴史です」
どういうことか?
小さく産んで大きく育てる!?
「派遣法が1985年に制定された際、派遣が可能なのは13業務に限定すると定められました。ところが、96年には26業務に限定が緩和。99年には“派遣OK”ではなく“派遣NG”の業務を挙げることにより、逆に“NG以外の業務は派遣OK”というところまで広がってしまいました。
現在は期間制限(3年)を撤廃して、派遣社員を正社員よりも安い賃金で半永久的に働かせられる法案が国会で審議されているところです。このように労働者に関する法律は、雇用側のメリットを優先する流れで緩和が続いています。ですから、残業代ゼロ法案も派遣法と同じ道をたどることになるでしょう」
実際、塩崎恭久(しおざき・やすひさ)厚生労働大臣は今年4月に有力経営者たちとの会合の席でこんな発言をしている。
「高度プロフェッショナル制度はまぁ、1千万円以上もらっている人って、実は働いている人の4%くらいしかいないんですね。(中略)ものすごく小さいところでスタートするんですけど、まぁ、我々としては小さく産んで大きく育てるという…」
これは拡大させる気満々じゃないか! 発売中の『週刊プレイボーイ』24号では、さらに「裁量労働制」の適用拡大という“隠し球”の可能性も検証しているのでお読みいただきたい!
(取材・文/興山英雄)
■週刊プレイボーイ24号(6月1日発売)「2021年に残業代ゼロ制度が『年収400万円』にまで拡大されるこれだけの理由」より