5月18日、下村博文文部科学相は2019年春の完成を目指す新国立競技場について舛添要一東京都知事と会談し、開閉式屋根の設置を20年の東京五輪・パラリンピック終了後に見送り、スタンドの一部は可動式ではなく仮設にするとの計画変更を明らかにした。工期が間に合いそうにないこととコスト削減が理由だという。

まだ着工さえされていないのに、国家プロジェクトが早くも2度目の建設計画見直し。何をやってるんだか…。ここであらためて、同競技場建設計画の推移をおさらいしておきたい。

東京五輪・パラリンピックの開催地立候補にあたり、国際デザイン・コンクールによって英設計事務所「ザハ・ハディド アーキテクト」の案が採用されたのが、12年11月。当初、総工事費は1300億円程度と見込まれていた。ところが、その後、あらためて試算してみると総工費は3千億円に達することが判明。あまりに巨額であることから、同競技場を運営する日本スポーツ振興センター(JSC)は床面積を25%削減するなどデザインを見直し、1785億円に圧縮する案を13年11月に公表した。そして、さらに資材の見直しなどが行なわれた結果、政府は14年1月、総工費が1692億円になることを明らかにしている。

何度も精査が行なわれてきたはずなのに、ここへきて突然、屋根なしのままの東京五輪・パラリンピック開催が明かされるという、大どんでん返し。誰のせいでこんなことになったんだ? 旧国立競技場と、その前身である明治神宮外苑競技場の成り立ちや歴史を追った『国立競技場の100年』の著書もある、サッカージャーナリストの後藤健生(たけお)氏が言う。

「JSCが無能で無責任なんですよ。彼らは新国立競技場建設の直接の発注者。だったら、工期や工費を厳しくチェックしなければならないのに、そのような能力のある人間がいない。だから、建設関係者や有識者の言葉を全部うのみにしてきた結果、どうにもならなくなってしまったわけです。このままJSCに任せていたら、また何かとんでもないことが起こるのでは」

では、それを防ぐためにどうすればいいのか?

「そもそも、8万人収容でサッカーと陸上の競技場を兼用させ、さらにコンサート用途も見込む、という発想そのものが時代遅れなのです。五輪終了後、それほどの人を集められるイベントがどれほどあるというのか。さらに、屋根があれば冷暖房などの維持費もかさみ、フィールドの芝生の生育にも悪影響を及ぼします。巨費を投じて造った挙句、客も入らず、赤字ばかりを垂れ流す施設など不要です。

だったら、計画を一度白紙に戻し、ダウンサイズさせた屋根なしの陸上競技場やサッカー専用スタジアムにするなど、妥当な総工費で五輪後にも使いやすく、神宮の景観を壊さない施設の道を探るべき。奇をてらわないデザインであれば、2年もあればイチから造れるはず。ここは急がず、半年ほどかけて、じっくり最善の策を論議すべきではないでしょうか」(後藤氏)

名誉ある撤退は恥ではない。聞いてるか、JSC!