和歌山県太地(たいじ)町のイルカ追い込み漁は倫理違反。捕獲したイルカを日本の水族館が購入し続けるなら除名するーー。
そんな通告を世界動物園水族館協会(WAZA)が日本動物園水族館協会(JAZA。動物園89施設、水族館63施設が加盟)に突きつけてきたのは4月21日のこと。
イルカは繁殖が難しく、現在イルカを飼育している国内34の水族館のほとんどは太地町からイルカを買っている。太地町からの供給がなければ、人気のイルカショーもままならないのが実情なのだ。
なのに、この通告。一体、どう対応すべきなのか、5月20日、JAZA内の投票で結論が出た。有効投票142票中、「WAZA残留」99票に対して「離脱」は43票。多数決によって水族館は太地町からイルカを購入できなくなってしまった。この結果に、ある水族館職員がこう不満を吐く。
「JAZAの会員は動物園のほうが多い。イルカを太地町から買うなと言われても、イルカを展示しない動物園は痛くもかゆくもない。だったら、除名を避けるためにWAZAの通告を受け入れようと動くのは当然。採決をすれば、残留支持が多数になることは最初からわかっていました」
別の水族館関係者もこう顔をゆがめる。
「ウチにいるイルカ27頭中26頭が太地町から買ったもの。館内にはイルカの名称もつく施設もあるというのに、購入が禁止され、イルカがいなくなったではシャレになりません。動物園はWAZAのネットワークを通じて、世界中からいろんな動物を入手できるので残留メリットはあるんでしょうけど、水族館にはさほどメリットはない。水族館の生き物は漁師が普段の漁で捕っているような希少性の低いものが大半で、国内でも十分に調達できますから」
将来は動物園組と水族館組に分裂?
となれば、やはり水族館は反旗を翻し、JAZA脱退覚悟で太地町からのイルカ購入を続けるのか!?
ところが、水族館関係者の多くはそんな性急な行動を否定する。下関市立しものせき水族館「海響館」(山口県下関市)の石橋敏章館長が苦しい胸の内をこう明かす。
「今のところ、多数決の結果には従うつもりです。ただ、繁殖には限界がある。それだけに太地町から新しいイルカが入手できなくなると、水族館にいるイルカは年々減ってゆくでしょう。個体数が減れば、水族館同士がイルカを融通し合うことが難しくなります。オスやメスに性別が偏り、繁殖に支障が出るというケースも考えられます。その時にはJAZAを離れ、太地町からイルカを買う可能性を否定はできないと思います」
どうやら、すぐにはJAZAの分裂はなさそう。しかし、水族館のイルカの寿命は10年以下ともいわれる。
「5年前からイルカの繁殖に取り組んでいますが、妊娠出産はゼロ。購入時にたまたま妊娠していたイルカがいて2頭の赤ちゃんが生まれたことはありますが、やっぱり育ちませんでした」(大分県大分市の大分マリーンパレス水族館「うみたまご」広報)
イルカの繁殖技術が劇的に進歩しないかぎり、将来、JAZAは動物園組と水族館組に分裂する可能性が大?
(取材/ボールルーム)