5月29日に鹿児島県・口永良部島が大噴火した。そして翌30日には小笠原西方沖でマグニチュード8.1、最大震度5強の地震が発生。桜島や箱根山は相変わらず活発な火山活動を見せるなど日本列島が揺れまくっている。
だが、実は太平洋地域に目を向けると、今年は注目すべき噴火や地震が多発しているのだ。これは世界最大の太平洋プレートで何か異変が起こっているのかもしれない。…となると、日本列島の大噴火・大地震時代はこれから本格化する可能性がある。
今回の「口永良部島(くちのえらぶじま)・新岳噴火」は最初の十数秒で無気味な黒いカリフラワー形の噴煙が高度500mにまで膨れ上がり、1分もたたないうちに噴煙の周りが崩れて高温の火砕流が発生。推定時速115キロで山麓を駆け下った。このパワフルな噴火パターンについて、火山学者の谷口宏充博士(東北大学名誉教授)は、
「おそらく、これは火口内部で固まった溶岩や砂礫(されき)が爆発的に破壊されて噴き上がる“ブルカノ式噴火”と思われます。ただし、これまでに報道されてきた映像資料だけを参考にすると、“ストロンボリ式噴火”の可能性も完全には捨てきれません」
という。火口から液体状のマグマが勢いよく噴き上がるのがストロンボリ式噴火の最大特徴だ。その光り輝く光景は夜間なら一目瞭然だが、明るい日中の噴火ではわからない場合もある。
実際、写真で噴火3時間後の空撮画像をよく見ると、火砕流を免れた火口の西側約1kmの森林からも白煙が上がっている。これは火砕流とは別に火口から飛び散ったマグマが火山弾となって落下し、森林を延焼させたと考えられる。気象庁の発表でも、今回の口永良部島噴火では山体の地下から上昇してきたマグマが直接に地下水脈と触れ、瞬間的な「マグマ水蒸気爆発」が起きたという。
つまり、火山熱で地下水だけが沸騰して「水蒸気爆発」した昨年9月の「御嶽山(おんたけさん)噴火」とは違い、今回の噴火では水蒸気とマグマの飛沫(ひまつ)が入り混じって黒い噴煙となり、高度9千mまで上昇したのだ。
ただし、噴出物の分析結果ではそのマグマ量はさほど多くはなく、新岳火口直下には依然として高温高圧のマグマが大量にたまっていることも明らかになった。いうなれば、5月29日の噴火は“お試し噴火”にすぎず、長期化が予想される火山活動では、より大規模なマグマ噴火が繰り返される恐れがあるのだ。
さらに箱根群発地震は4月から5千回超
この“火山活動の長期化”は、同じ九州地方の「薩摩硫黄島(いおうじま)」「桜島」「霧島・新燃岳(しんもえだけ)」「阿蘇山」でも数年前から問題視されてきた。これらの活火山は、かつて南九州の大地を10m以上も覆い尽くす噴出物を吐き出した「破局噴火」による巨大火口(カルデラ)内(直径20㎞以上!)にある。
そして口永良部島も、7300年前頃に破局噴火して九州の早期縄文文化を一瞬で壊滅させた「鬼海(きかいカルデラ」付近に位置している。今再び九州で破局噴火の危険性が高まっていると説いてきた火山研究者で小説家の石黒耀(あきら)氏によると、
「鹿児島から約50km南に浮かぶ薩摩硫黄島は鬼界カルデラの名残で、この巨大海底カルデラの南端から少しズレた口永良部島の火山活動は、鬼界カルデラとは別のマグマだまりが引き起こしているとも考えられます。だとすれば、口永良部島の海域で新しい破局噴火の危険が高まりつつあるのかもしれません。
この口永良部島の噴火は注意深く変化を見守るとして、もっと気になるのは活動が強まるばかりの桜島です。もともと桜島火山の土壌は脆(もろ)く、特に南側斜面はかなり崩壊が進んでいます。噴火や地震が引き金となって大規模な山体崩壊が起きる恐れがあり、その場合には大量の土砂が海へなだれ込み、大津波が鹿児島湾沿岸部を襲いかねません。
こうした火山活動の長期化による災害リスクのエスカレートは、群発地震と大涌谷(おおわくだに)の水蒸気暴噴が強まるばかりの箱根火山についても同じです」
桜島の異常な活動については2月にも本誌でリポートしているが、さらに“今そこにある危機”度が増していることは間違いないようだ。
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■週刊プレイボーイ25号(6月8日発売)「太平洋の底が震え始めた!」より
(撮影/吉留直人)