韓国で猛威を振るうMERS(マーズ/中東呼吸器症候群)コロナウイルス。6月11日現在、韓国国内の感染確定診断数はサウジアラビアに次ぐ世界第2位の122人。死亡者は9人、隔離対象者は約3400人に上っている。
韓国保健当局は初動を誤り、2次感染、3次感染を国内で広げてしまうとともに5月26日には国外出張で中国・広東省を訪れた会社員が現地でMERSと診断される事態も発生。日本でも主に「韓国からのMERSの流入は防げるのか」という議論がメディアをにぎわせている。
しかし、実は韓国からの流入以上に危惧(きぐ)されるのが、韓国からMERS患者を“輸出”された中国での感染拡大なのだという。
広東省衛生・計画出産委員会の6月4日付の通達によると、広東省の病院に入院している韓国人のMERS患者と密接接触したことがわかっている78人がようやく全員発見され、隔離された。今のところ2次感染者が発見されたとの発表もない。
ただし、これで安心するのは早計だ。中国の医療事情に詳しいジャーナリストの程健軍(チェン・ジェンジュン)氏はこう語る。
「広東省疾病管理センターがこのたび発足させたMERS統制専門家チームのトップは『MERSが中国で流行する可能性は低い』と自信を見せています。また、中国共産党の機関紙である『人民日報』も同様の内容を報じています。しかし、これは当局が騒動を力ずくで“鎮火”したい時のパターンのようにも見えるので、正直言って逆に気になるところです。
何しろ中国では6月1日に長江でフェリーが沈没し400人以上が犠牲になりました。当局からすれば、ただでさえこの事件でピリピリしている時にMERSというさらなる不安を煽(あお)ってほしくない。関連報道が禁じられているということはありませんが、メディアの報道内容は当局の“大本営発表”に沿ったものに限るという、事実上の規制がかかっている可能性はかなり高いです」
中国には強力な“MERS流入ルート”が!
言い換えれば、中国国内の報道をいくら見ても、情報がすべて明らかになっているとは限らないということだ。そもそも、今回発見された患者以外にも中国には強力な“MERS流入ルート”がある。
「MERSの流行源は中東地域ですが、中国はもともと中東との交易が盛んで、最近は経済成長とともに人の往来がますます盛んになっています。MERSは発症まで2週間ほどの潜伏期間があり、この段階の感染者を空港などで発見することはほぼ不可能。いつ感染者が入国してもおかしくない状況です」(前出・程氏)
そして、いったん2次感染が始まった場合、中国では感染者を残らず早期発見することは不可能に近い。
「例えば、SARS(サーズ)や新型インフルエンザなど中国で感染症の大流行が起こりやすいのは、衛生環境の悪さに加え、皆(かい)保険制度がないのも一因。自費で保険に入れない一般庶民は高額な医療費や医師への“心づけ”を払う余裕などなく、MERSの初期のような風邪程度の症状では病院に行く習慣がありません。伝統の漢方薬に加え、欧米や日本では認可されないような強い抗生物質も薬局で簡単に買えますから」(程氏)
もちろん、こうした薬局で買える薬はMERSには効かない。つまり、医療機関や当局が正確な状況を把握できないまま感染者が増えていく可能性も十分にあるのだ。
発売中の週刊プレイボーイ26号では、さらにこの中国経由のウイルスが日本に流入する際、水際で防ぐことの困難さを伝えているので併せてお読みいただきたい!
(取材・文/近兼拓史)