顔面ガチボッコ事件で世を騒がせた女子プロレスラー・世IV虎(よしこ)が引退。6月14日、スターダムの後楽園ホール大会で行なわれた引退セレモニーでファンに挨拶した。
世IV虎コールが巻き起こる中、引き止めたい選手たちが乱入、しかし世IV虎は挨拶も早々にそそくさとリングを後に…。予定されていた10カウントゴングもなかった上、一切の映像を流さないことが大会終了後に発表され、関係者やファンを戸惑わせた。
そもそもこの引退劇をセレモニーにするのもおかしな話だが、本気で引き止めるならナゼ騒動の一方の当事者である安川惡斗を連れてこないのか?…と茶番的な裏を勘ぐらずにはいられないが、「俺は引退は認めないぞー」と叫ぶ男性ファンの野太い声の中、何とも不透明な幕引きとなった。
主力選手の退団が相次ぎ「団体として何か問題があるのでは?」との声も聞こえるスターダム。先日、電撃退団した主力選手・高橋奈苗は新会社設立を発表し、どうにもきな臭い流れだが、団体としては“ガチ”でプロレスできる選手を立て続けに失い、選手層が薄くなったのは間違いない。
女子とは思えないスゴ技で人気を誇る絶対エース・紫雷イオが残ったとはいえ、ほとんどが線の細いアイドル系選手という印象はぬぐえず、今後は外部の戦力に頼りつつアイドル路線に舵を切ることを余儀なくされそう。団体としてひとつの分岐点を迎えているようにも見える。
もっとも、そのアイドル路線がナシかといえば一概にそうとは言えず、この日のメインで行なわれたタイトルマッチは必見だった。
迎え撃つチャンピオン・宝城(ほうじょう)カイリは『世界ふしぎ発見!』などTVでのタレント活動でも知られ、会場はいつも男性ファンの「ほーちゃん」コールでいっぱい。その挑戦者がなんと、仙台ガールズプロレスリング代表・里村明衣子。キャリア20年、女子プロ界ではレジェンド級ともいえる重鎮だ。
美人の里村はデビュー当時、そのビジュアルに反して強さ・勝利を求めるプロレスを追求し、またボディビルコンテストにも出場する求道者として知られる。まるで女子プロ界2大潮流の潮目のようなマッチメイクともいえるのだ。
まずガッチリと組み合う両者…だが里村の腕は、ほーちゃんの2倍ぐらい太い! 猛攻に耐え切れず場外エスケープする宝城を追いかけ、里村はまさかの花道でのデスバレーボム! ゴツンという鈍い音とともに倒れこむ宝城! しかし里村は髪の毛を掴んでリングに戻し、一切の容赦なく執拗に腕ひしぎを仕掛けていく…まるで蟻地獄!
試合は引き分けで、王座の移動はなく「防衛」という結果だけ聞くとこれまた不透明感アリアリなのだが、会場に足を運んだファンの熱量は違った。
試合後の会場は、そもそもアイドルレスラーである宝城が明らかに格上の里村相手に30分戦い抜いたカタルシスに包まれ、少なくとも会場に足を運ぶファンのニーズは満たしていたことを実証。グラビアレスラー・愛川ゆず季を輩出した団体だけに「プロレス経験のない宝城を見出したのはすごい」と小川社長の鑑識眼を評価する声も。
先月は、あのももクロとのコラボ企画もあり、それをきっかけにスターダム観戦に足を運ぶようになったモノノフたちもいるという。
そこへ今後は、海外の選手をどれだけ呼べるかも勝負となってくるが、月イチで後楽園ホール興行を打つ集客力は海外の選手への訴求力もある。先日、入団したブロンドが美しいチェルシー選手はアメリカの有名レスラーの姪。スピニング・トゥーホールドなど懐かし技に加え、露出多めコスチュームからのハミケツだけでも拝んでおいて損はないスター候補だ。
もとより選手の入れ替わりが激しいスターダムは、プロレス女学園の栄枯盛衰を見るようで、“卒業”した先輩の穴を埋めようとキュートな若手が台頭する歴史を繰り返してきた。今まさにその青田買い期となり、食わず嫌いはもったいないともいえる。事実、集客は逆に増えているようだ。
世IV虎に話を戻すと、あのテリー・ファンクだって幾度となく引退・復帰を繰り返したことだし、プロレス界で出戻りはノープロブレム。波紋を呼んだ騒動の是非は後の歴史が証明するものーーファンが待っている間に戻ってくるのがやはり得策か!?
(取材・文・撮影/明知真理子)