労働者派遣法改正案の衆院可決を受け、TV局が頭を抱えている。

改正案の主なポイントは以下のふたつ。(1)3年ごとに人を代えれば、企業は派遣社員をずっと受け入れることができる。(2)派遣期間に定めのない専門26業種をなくし、業務を問わず、派遣先で働ける期間を最長3年に統一する。

この改正案を前に、在京キーTV局の社員がため息をもらす。「(2)の専門26業種を廃止するという点がTV局にとっては大打撃なんです」

一体、どういうことなのか?

「26業種の中に放送用機器の操作、放送番組の演出、放送番組のアナウンサー、放送番組の大道具・小道具業務とTV制作に関するものが4つも含まれているんです。局の制作現場は派遣スタッフが中心。ワイドショーなど番組によってはスタッフの9割が派遣というケースも珍しくありません。

これまで派遣スタッフは期間の定めなく働けたのが、改正後には3年間で別のスタッフと交替しなくてはいけなくなる。制作現場は大混乱になるでしょうね」

長年、情報番組を制作してきたプロデューサーも渋い顔を隠さない。

「新米ならまだしも、番組を知り尽くした派遣スタッフは絶対に手放せません。制作ノウハウだけじゃない。番組作りに欠かせない情報収集力や幅広い人脈もあわせ持っている。余人には代えがたい人たちなんです。そのベテラン派遣スタッフがいなくなれば、その日から番組作りはストップしかねません」

こうした危機感からか法案可決後、各局ではこんな秘策を練っているという。前出のプロデューサーがこっそり明かす。

「派遣ロンダリング」は通用しない?

「3年の切り替え時期がきた時点で、派遣スタッフを別の番組に一度、異動させる。そこで2~3ヵ月働いてもらい、その後再び元の番組に復帰してもらおうと考えています」

改正ポイント(1)の「3年ごとに人を代えれば、企業は派遣社員をずっと受け入れることができる」という規定を逆手にとり、2~3ヵ月、別の番組で働くことによって元の職場に戻れるようカモフラージュしようという作戦だ。

派遣社員の「経歴」を一度洗浄してリセットするわけで「マネーロンダリング」ならぬ「派遣ロンダリング」と呼べそう。だが、そんな抜け道を地方TV局の社員がうらやましがる。

「キー局はいいですよ。たくさんの番組を制作していて、同じ局内の番組間で派遣スタッフを交換できますから。でも地方の系列局ではそんな裏技は使えません。編成プログラムのほとんどがキ―局からの配給番組で独自に制作するものは予算の関係上、ごくわずかなんです。

地域発の情報番組などだと独自制作は一番組だけという局も少なくない。派遣スタッフを一時的に別の番組に異動させようにも、その対象がないというのが実情です」

そして労働法に詳しい弁護士からはこんな疑問の声も…。

「確かに3年ごとに職場を代えれば、同一の事業所で派遣社員を雇用し続けることはできる。しかし改正案には『業務が大きく異動する必要がある』とも書かれています。これは例えば、人事部の1係から2係への異動ではダメということ。人事セクションから企画セクションに移るくらいの大幅な異動でないと認められないと解するべきでしょう。

であるなら、別の番組に派遣スタッフを移すという手法も違法になる可能性があります。番組は違っても制作に携わる職場という意味ではさして違いはないからです」

TV局も格差を見直すべき!

ということは、キー局の「派遣ロンダリング」という秘策は通用しない?

「そもそもTV局の制作現場で働く派遣スタッフの年収は局社員の2分の1、3分の1ほど。派遣スタッフの低賃金が局正社員の高給を支えてきたんです。

『派遣ロンダリング』などという手法でしのぐのではなく、この際、派遣スタッフと正社員の待遇格差を見直して『同一労働同一賃金』へと舵を切るべきでしょう。その代わりに派遣スタッフが同一番組で何年でも働けるよう法律を改正すべきと要求すればいいんです」

TVがつまらなくなったと言われて久しいが、頼りの派遣スタッフに依存し、苛酷な労働条件で疲弊させてきたのも事実。良質なコンテンツを作り続けるためにも、今回の法改正をきっかけに局側も根本的な待遇を見直しては?

(取材・文/姜誠)