6月1日、「改正道路交通法」の施行により、警察による危険自転車の撲滅が始まった。それから約3週間が経った今、自転車の取り締まり強化はどうなったのか。東京を自転車で走り回って、実態を調査した!

そもそも今回の改正道路交通法(改正道交法)の目的は悪質な交通ルール違反を繰り返す自転車への罰則の強化だ。

その内容は14項目に及ぶ自転車の「危険行為」を3年以内に2回犯した14歳以上の運転者に安全講習の受講を義務付け、サボれば5万円以下の罰金が科される、というもの。

施行スタートの6月1日には全国で警察による一斉取り締まりが行なわれ、都内では97ヵ所が網にかけられた。TVや新聞ではその様子が詳しく報じられ、ツイッターでも「捕まった!」という投稿が相次いだ。

どうやら警察は本気らしい。今後、自転車の危険行為は片っ端からしょっぴいていくのか?と思いきや…一斉取り締まりから2週間後の15日昼間、交通量が多い東京・新宿エリアを観察してみると、いまだに危険な運転をしている自転車が多い。

例えば、車道の逆走。自転車は車と同じく、左側通行が大原則だ。しかし、都内でも特に人と車の行き来が激しい「靖国通り」を1時間ほど監視してみると、堂々と車道の右側を車と逆方向に走る自転車を2台も見つけた。

そのうちの1台は真向かいから来る自転車や車と何度もすれ違い、今にも事故を起こしそうだったが、そのまま逆走し続けていた。また、イヤホンを両耳につけての運転もふたり発見。周りの音が聞こえない状況で安全運転なんてできるのか…?

何より意外だったのが、これらを取り締まる光景が見られない、ということ。試しに本誌記者もイヤホンを両耳に装着して(音は消している)、交番の前で立っている警察官の目前を5ヵ所、のろのろ通過してみたが、一度も声をかけられなかった。

厳しかったのは6月1日だけ

取り締まりは本当に厳しくなっているのか? この疑問に、国内外の自転車政策を調査・研究している自転車活用推進研究会(自活研)の事務局長・内海潤(うつみ・じゅん)氏もうなずく。

「東京に限っていえば、厳しかったのは6月1日だけで、それ以降はあまり変わっていないですね。警察はもっと人員を割いて、厳しく取り締まる必要があると思います。そうしないと、悪質な自転車乗りはなかなか減りませんよ」

もちろん、法律が施行されたからといっていきなり街から危険運転が一掃されるわけではない。ただ、危険運転による事故を少しでも減らすには取り締まりが厳しくなったという“実感”を広く浸透させる必要がある。しかし、都内にはそんな感じは一向にない。

都内のある警察署の交通課の職員がぼやく。

「ここ数年、交通事故全体に占める自転車事故の比率が高くなっていることから自転車の違反取り締まりは強化しています。しかし、これ以上厳しくしようとしても警察官の人数が足りないんですよ」

また、警察が思い切った取り締まりに踏み切れないのは他にも理由がある。

「改正道交法が施行された現在でも、警察は危険運転の違反に対して“赤キップ”でしか対処できないんです」

そう語るのは、自転車に関する多数の著作でも知られているTVプロデューサーの疋田智(ひきた・さとし)氏だ。同氏は自転車を愛するがゆえに危険運転には厳しい視線を向けている。

よほどの危険運転でなければ赤キップは切れない

「赤キップは刑事処分です。違反者は指定された日に警察署に出頭し、取り調べを受け、検察官に起訴されれば罰金に加えて前科もつきます。

ただ、起訴のための取り調べや書類作成など非常に手間がかかるし、連発すれば検察や裁判所にも負担になるので、現場の警察としてはよほどの危険運転でなければ赤キップは切れなかったんです。

だから今回の法改正によって、反則金のみで前科がつかない“青キップ”のような手続きが自転車取り締まりにも導入されると私は期待していました。ところが、実際にフタを開けてみたら導入は見送られてしまった。つまり、危険運転を厳しく取り締まるハードルはいまだ高いままなんですよ」

要するに、警察にしてみれば、例えばイヤホンをしてスマホを見ながら自転車に乗っている悪質な違反者を見つけても、事故が起こらない限り、赤キップを交付するのは“割に合わない”ということだ。

ただ、6月1日の一斉取り締まりでは、警察官が違反者に対して違反キップのようなものを発行している様子がTVでも流れていた。あれは赤キップでは?

「いいえ。『指導警告票(黄キップ)』です。これには罰則の法的根拠がないので、何回食らっても安全講習にはつながりません」(疋田氏)

昨年に全国で交付された自転車の違反に対する赤キップは8070枚。一方、指導警告票は172万8060枚とケタが違う。この間を埋める役割として、“青キップのような制度”の導入が期待されるのもよくわかる。

警察官の人数は足りず、使いづらい赤キップはそのまま。いくら「厳しくする」と宣言しても、現場では以前と同じレベルで取り締まるのが精いっぱいなのだ。

(取材・文/頓所直人)

■週刊プレイボーイ27号(6月22日発売)「自転車取り締まり強化すったもんだワイド」より(本誌では、さらに他の問題点を検証!)