韓国がMERS(中東呼吸器症候群)コロナウィルスとの戦いにてこずっている。

5月20日に最初の患者が確認されてから、これまでに感染者は182人、死者は33人にも拡大(7月1日段階)。驚くのは隔離対象者の多さだ。現在、感染の疑いありで隔離されている人数は約4千人。検査の結果、陰性とわかり日常生活に復帰できた人々も含めると、隔離対象となった人数は約1万8千人にも及ぶ。

ここまで拡大したのは、朴クネ政権の初動対応がまずかったためというのが定説だ。風評被害を恐れ、患者の入院した病院などの情報を韓国政府が隠した結果、感染者を芋づる式に増やしてしまったのだ。

ただ、原因はそれだけではない。韓国でこれほど広がった背景には別の意外なワケがあるのだ。韓国紙の在京特派員がこう説明する。

「韓国では病名がはっきりするまで、いくつもの病院を受診する『病院ショッピング』という習慣があります。病状が回復しない場合、かかった医師の能力に問題があると考え、次々と転院してしまうのです。

MERS第1号となった68歳の男性も診断が確定するまでに4つの病院を渡り歩いている。この『病院ショッピング』の習慣のせいで、院内感染者がいたずらに増えてしまったのです」

確かに、この68歳の男性は8日間に4つの病院を受診し、うち3つの病院で同室の患者や治療にあたった医師など38人にMERSを感染させてしまったという。その2次感染者のひとりが、今度は1週間で2ヵ所の病院を訪ね、そのひとつであるソウルサムスン病院で60人以上の3次感染者を発生させている――。

そしてもうひとつ、感染拡大の意外なワケを指摘するのは韓国の医療関係者だ。

「韓国独特の看護文化がここまでMERS感染を拡大させました」

独特の看護文化とは?

「儒教の影響もあって、韓国では家族の結びつきがとても強い。そのため家族のひとりが入院すると、病室に付き添い用のベッドを入れて、他の家族が24時間付きっきりで看護することが珍しくないんです。

看護師もそれがわかっているから患者の世話はしません。治療に関する業務に専念し、着替えや洗面といった日常の世話などはすべて家族任せです」(医療関係者)

過剰なお見舞いの習慣も!

加えて、過剰なお見舞いの習慣も見逃せないという。この医療関係者が苦笑する。

「人間関係が濃厚なため、誰かが病気になると、親族だけでなく職場の同僚や学校の友人などが昼夜を問わず、大挙してお見舞いにやって来るんです。面会時間の規則など、あって無きがごとし。守る人はほとんどいません」

日本の病院でも昨今は患者の安静を守るため、そして不要な院内感染を防ぐため患者以外の人はなるべく近づけまいとする。面会時間は厳しく制限され、寝泊りの看護なども禁止されるご時世だ。

しかし韓国では病人以外の親族や同僚、友人らが大勢、病院を訪ねてくる。その時にMERS患者と院内で接触し、結果として1万8千人もの人々が隔離対象者となってしまったというわけだ。前出の在京特派員が言う。

「6月中旬にソウルから400キロ離れた釜山市で初の死者が出たのですが、やはりこの患者が感染したのは病院にお見舞いに行ったためでした。MERSによる死者の3分の1はこうした看護の家族や見舞い客だったことがその後の追跡調査でわかっています」

「病院ショッピング」の習慣に、過剰とも思える韓国の看護・お見舞い文化――。普通なら悪い慣習ともいえない、このふたつがまさかパンデミックを助長するとは…韓国は今後どう防いでいく!?

(取材・文/姜誠)