「福島県の学校のプールサイドが放射能汚染されたまま、今年もプール授業が始まってしまう」ーー。
子供の被曝(ひばく)を心配する県民から編集部にこんな連絡が入ったのは6月だった。早速、現地で取材すると、生徒たちは今でも信じられないような被曝環境の中で学校生活を送っていることがわかった。
原発事故から4年が経ち、放射能への“慣れ”が進む中、福島の子供たちは知らずに健康リスクを背負ってしまっている。
週プレは昨年夏、福島市の小中学校のプールサイドが「放射線管理区域」(放射線による障害を防止するために法令で定めた場所)並みに汚染さているのに、なんの対策も行なわれずプール授業が進められている実態を2度にわたってリポートした。
だがプール授業が進められているのは福島市だけではない。福島市よりも福島第一原発に近い伊達市在住の保護者が言う。
「私たちの市でも、原発事故の起きた2011年からプール授業を開始した小学校がありました。1年間の積算線量が20mSv(ミリシーベルト)を超える特定避難勧奨地点のそばなのに、大臣が視察に来るからとプール開きをしたのです。除染はしてあったようですが、それでも空間線量が毎時1μSv(マイクロシーベルト)を超えていたような時期。さすがに保護者からのクレームが来て、その後、閉鎖しました」
この保護者が指摘する学校では2011年7月当時、地表線量が毎時19μSv、表面汚染は1万cpm(カウント・パー・ミニッツ)あった。それを除染して、それぞれ1.5μSv、3000cpmに下げたという。
だが、それでも除染後の空間線量は国の除染基準の6倍、表面汚染は放射線管理区域の3倍に上る。プール自体の放射線量は公表していないが、これでは除染しても子供たちは被曝してしまったに違いない。
線量が高いプールサイドを裸足で歩くと…
原発事故から4年が過ぎ、空間線量は着実に下がっていると国は言う。原子力規制委員会が昨年1月にヘリコプターから計測した線量マップでは、第一原発から半径80㎞圏に近い場所では毎時0.1μSv以下の所が増えつつあるという。
だが、生活空間の線量は本当に下がっているのか。日頃から放射線測定をしている県民に聞くと、まだ高い場所はあちこちにあるという。
「いくら下がったと国が言っても、線量の高いホットスポットは至る所にあります。毎時10μSvの場所も珍しくない。除染すれば一時的には下がります。ですが、問題は除染されていない山などから飛んできた放射性物質により、またすぐに数値が上がってしまうことなのです」(南相馬市在住の小澤洋一氏)
そんな状況の中で、今年も学校のプール授業の季節がやって来た。編集部に情報を寄せてくれたA氏は「特にプールサイドに表面汚染の高い所がまだある。何も対策が取られていないため、このままでは子供たちが被曝してしまう」と訴える。
表面汚染とは、物体の表面に放射性物質が付着していること。コンクリートなどに一度ついてしまうと、細かな隙間に染み込んでしまい、なかなか取れない。そこから放射線を発し続けるため、被曝してしまうのだ。元京都大学職員で放射線計測を専門とする河野益近氏が指摘する。
「プールサイドのコンクリートに放射性物質が吸着していることで考えられるのは、そこを裸足で歩いた場合の被曝です。足の皮膚はガンマ線に加え、放射線の飛ぶ距離が短いベータ線でも被曝してしまいます。1000から2000cpm程度での影響はわかりませんが、被曝の影響が被曝量に比例することを考慮すれば、皮膚表面がよりダメージを受けることは確かです」
どのくらいの汚染があるかは、専門の測定器が1分間に何個放射線を検出したか(cpm=カウント・パー・ミニッツ)を測り、それを単位面積当たり1秒間に何個放射線を出したかに換算する。1平方センチメートル当たりの個数ならBq(ベクレル)/平方センチメートルで示す。
前回、福島市の小中学校を測定した時には最高3100cpmを記録し、福島第一原発の免震重要棟並みに汚染されていたことがわかっている。
今回は前回測定しなかった高校に焦点を当て、6月中旬に福島市、郡山市、伊達市、川俣町、二本松市の県立高校のうち20校を測定した。学校プール内の測定取材を福島県教育庁に申し込んだが、
「学校プールサイドの空間線量率の測定結果から安全であると判断しているため、取材による測定は必要ないと考えています」(健康教育課)
という理由で許可が得られなかった。そのため、なるべくプールから近い学校敷地外を測ることにした。
本来なら18歳未満が立ち入れない場所だった
すると、すべての学校で最高値が、放射線管理区域を超える1000cpm以上の表面汚染を記録。特に、古いコンクリートやコケの部分で高い数値を示した。
今回使用した測定器では、1000cpmを超えると放射線管理区域と同レベルの汚染があることを示す。つまり、本来なら18歳未満が立ち入れない場所ということだ。
参考までに、都内の学校敷地外で同じような条件の場所を測定してみたところ、最高でも170cpm以下だった。計測したすべての学校で1000cpmを超えている福島がいかに高いかわかるだろう。
特に高い値を示したのが福島市内の東部。いずれも2000cpmを超え、汚染度が高い渡利地区にある福島南高校ではプール横のコンクリートで最高2580cpmを記録。地上1メートルの空間線量は毎時0・28μSvを示した。
また、福島市と並んで高校数の多い郡山市では6校中3校が2000cpmを超えた。
そのうちの郡山商業高校では、プールの数m下にある草むらで測定器の針が振り切れ、デジタルカウントを確認すると1万2000cpmを表示。さらに地表の放射線量は毎時12μSvを示した。そこに1年間いれば105mSvの大量被曝をしてしまう。
通常、一般人が被曝してよいのは年間1mSv以下。政府が今、福島の一部住民に強制しようとしている値でも年間20mSvだ。局所的とはいえ、その5倍の値を示す場所が存在し、その真上には学校プールが、横の民家には人が暮らしていた。このように国や県がいくら除染は進んでいるといってもまだまだ線量が高い場所はあるのだ。
もちろん、これらの数値は直接プールサイドを測定したわけではないので、プールサイドが同じように汚染されているかは断言できない。だが、同じコンクリートの上だから参考にはなる数値だろう。
●そもそも表面汚染の測定データは取っていない? 校外ランニングで内部被爆の可能性も!…など、この続きは発売中の週刊プレイボーイ31号でお読みいただけます。
(取材・文・写真/桐島瞬)
■週刊プレイボーイ31号(7月21日発売)「福島汚染プール問題『県立高校は小中学校よりもさらに汚染されている!』」より