近年は「その暑さを体感するためだけに観光客が来る」という熊谷市だが…

全国的に猛暑が続いている中、「暑さの日本最高記録」をめぐる戦いもヒートアップしてきた。

日本の暑さ最高記録といえば、2007年に40.9度を記録した埼玉県熊谷市を思い浮かべる人が多いだろう(岐阜県多治見市も同記録タイ)。近年は「その暑さを体感するためだけに観光客が来る」というほど有名な街だ。

しかし、実は現在の最高記録は高知県四万十市の41.0度(13年)。日本一を奪われた熊谷市は、まちおこしの危機ではないのか? このピンチに市はどう対応しているのか調べるため本誌記者が現地に向かった。

この日の気温は37度超。駅前にいた地元のおばちゃんが言う。

「熊谷はこの時期、たいてい朝の8時には30度を超えて、夜は日が沈んでも気温が下がらない。熊谷の夜は、ただ暗くなるだけ(笑)」

別の星にでも来てしまったのかと、暑さでもうろうとしながら市内を歩く。一体、熊谷市民はどうやって涼をとっているのか? 観光案内所に聞くと、「雪くま」と「くま辛」で酷暑を乗り切っているとか。

「『雪くま』とは市認定のかき氷のことです。地元産の氷、ふわっとした雪のような食感、オリジナルシロップ使用の3条件をクリアしたかき氷だけに許されるブランド名で現在、28店が『雪くま』を販売し、味を競っています。これの食べ歩きが市民や観光客の夏の楽しみになっているんです」(市商業観光課)

では「くま辛」は?

「暑い熊谷を辛い食べ物で元気にしようと、地元飲食店が発案した辛いものグルメのことです。12年から始めて、今では市内30店舗で『くま辛』メニューを楽しむことができます」(「くま辛」プロジェクトの仕掛け人・大関暁夫氏)

そこで記者も酒粕を使ったシロップの「雪くま」と「グリーンカレー」を堪能。冷たいかき氷はもちろん最高だが、暑さで体が辛いものを求めているのか、グリーンカレーもぺろっと完食。うまし!

今さら1位になる必要もない

その後は、意外にも夏場も流行っているという「孳(ふゆる)」という屋号の砂風呂屋さんへ。このクソ暑い中、なぜ砂風呂かと思いきや、これが異次元の体験なのだ。

43度の砂風呂に埋まること15分。その後、砂を落とすために水で体を流すのだが、常温の水がキンキンに冷えた氷水のように冷たく感じるのだ! さらにシャワーで砂を流して外に出ると、37度の外気温が秋風のように涼しく感じるではないか。これはやみつきになるほどの快感だった。

こうして熊谷は、今も酷暑を町おこしのリソースとして上手に有効活用していた。当然、自治体も暑さ日本一への返り咲きを狙っていると思いきや、意外にも妙に冷めているのだ。

「記録を抜かれて悔しい? まったくそんなことはありません。1位への返り咲きも狙っていません」(熊谷市役所)

それはなんで?

「今、熊谷が目指しているのは暑さ日本一ではなく、暑さ対策日本一なのです。市民が熱中症などにならないよう日本一の施策をやってゆく。熊谷市が日本で唯一、優れた暑さ対策事業に環境省から授与される『ひと涼みアワード』のトップランナー賞を3年連続で受賞できたのは、その成果の表れです」(市役所)

熊谷名物の高さ約4mの巨大温度計設置の仕掛け人である八木橋百貨店の宮地豊販売促進部部長もこううなずく。

「暑い町といえば熊谷。そのイメージはすっかり全国に浸透しています。今さら1位になる必要もないでしょう」

酷暑を逆手に取り、観光資源や名物も生み出している熊谷市だが、他の都市との酷暑バトルに関してはどこまでも余裕シャクシャクなのだ。

(取材・文・撮影/ボールルーム)