缶チューハイにとってはまさに“道連れ増税”。また、ビールは少し値下げとなるが発泡酒、第三のビールは値上げによって淘汰される可能性も… 缶チューハイにとってはまさに“道連れ増税”。また、ビールは少し値下げとなるが発泡酒、第三のビールは値上げによって淘汰される可能性も…

庶民のささやかな楽しみを狙い撃ち!? 

安くてうまくて、日々の晩酌に欠かせない缶チューハイーーその酒税の大幅引き上げが検討されているという。

以前から発泡酒、第三のビールの増税が取り沙汰されている中、新たに缶チューハイまでも標的にされた理由とは?

■手っ取り早く庶民から搾り取れる

現在、政府が2016年度税制改正に向け、審議を重ねているのが酒税法の改正。ビール系飲料の税額の一本化を目指しているという。

これまで各メーカーが酒税法に沿って、税額の低くなる製法や原料を用いるなど工夫をこらしながら「発泡酒」「第三のビール」を開発してきたのはご存じの通り。だが、値段の高い「ビール」を減税、値段の安い発泡酒と第三のビールは増税する形で、ばらつきのある税額を統一し、安定した税収を確保しようというのである。

企業努力を無にするようなひどい話だが、それだけにとどまらない。ビール系飲料の税額一本化とともに、なぜか缶チューハイまで増税が検討されているのだ。

現在一缶(350ml)当たり、ビールは77円、発泡酒は46.98円、第三のビールと缶チューハイ(アルコール度数10%未満)は28円という同じ税額だ。これをビール系飲料は55円程度に統一し、缶チューハイも同程度の税額にするとみられる。

ビールが安くなるのは嬉しいが…その他は全部値上がり! これは厳しい。そもそもビール系飲料はともかく、なぜ種類の違う缶チューハイまで一緒に増税を検討されなきゃいけないのか? 「週に1本ペースで缶チューハイを飲んでいます」という経済アナリストの森永卓郎さんに聞いた。

「一緒に増税しないと、缶チューハイだけが断トツで安くなってしまって市場競争が妨げられるという言い分で“道連れ”的に増税が検討されているんです。

たばこの増税も同様でしたが、本当に近年の税制改正は庶民から手っ取り早く搾り取ろうという姿勢が見え見え。自民党の税制調査会では『(値段の安い缶チューハイは)未成年者がジュースと間違えて手に取りやすいから一緒に値上げすべき』なんて意見も挙がったそうですが、ジュースと間違える人なんていないでしょ!」

缶にきっちり「お酒」って書いてあります。

「本当に缶チューハイも増税されるなら、私は焼酎、ジュースや炭酸水を別々に買って、自分でチューハイを作って飲むかも(苦笑)」(森永氏)

アメリカの12倍、ドイツの20倍

この缶チューハイ増税、まだ本決まりではないし、ビール系飲料の税率一本化の対象には含まれないという一部報道もあるが…メーカー側はどう受け止めているのか?

缶チューハイも取り扱うキリンビール、アサヒビール、サッポロビール、サントリーのビールメーカー4社は、いずれも「まだ税率が上がると決まっていないのでコメントできない」とのこと。

そんな中、ロングセラー「タカラcanチューハイ」などを販売する缶チューハイの老舗、宝酒造の広報課はこう回答した。

「そもそもチューハイはその性質において、ビール系飲料とはまったく異なるもので類似性を有していないため、一部で報道されていたビール系飲料の税率一本化に際して、チューハイは対象に含めないとする判断が適切だととらえています。

未成年飲酒などの不適切な飲酒防止の観点からも増税が検討されているとのことですが、酒類は(飲めば酔いが回る)致酔性もありますので様々な社会的な規制を課すことも必要だとは思います。しかし、その解決方法としてチューハイが増税されるのは本意ではありません」

酒税法に詳しい青山学院大学の三木義一教授も増税検討に異を唱えるひとり。

「今回のチューハイ増税問題には、やはりビールの税額が大きく影響しています。もともとビールは外来の高級酒という扱いで税額が高く設定されていたことが根幹にありますね。戦後の販売統制があった時期では、大卒者の初任給が約2千円だったのに対してビールが168円程度で、そのうち144円が税金という高額の税でした。そこから少しずつ下がってきてはいますが、国際的に見ればまだまだ高い。現状でもアメリカの12倍、ドイツの20倍の税率です」

手っ取り早く搾り取れる?

ほ、本場ドイツの20倍! ビールはそんな高税にもかかわらず大衆的人気を獲得。だが、「それこそが税額を大きく引き下げられない理由」だと三木氏は続ける。

「本来の酒税法の概念は、高級酒やアルコール度数が高いものに高い税額をかけ、庶民が飲む大衆酒には安い税額をかける仕組みで、格差を縮める役割を果たすものでした。しかしビール人気が浸透し、酒税の財源として大きくなったため財務省的にあまり税額を安くしたくないという思惑はあるはず」(三木氏)

酒税は間接税であり、メーカーから一括で徴収できるのもポイントだという。

「国からすれば、100%取りっぱぐれがないからラクなんです。そんな中、ビールの消費が落ち込み、税額の安い発泡酒、第三のビールの人気が出てきたので、今度はここの税率を調整することで財源を確保しようとしている。その際にチューハイも第三のビールと同じ税額だということに気がつき、ついでに増税してやろうという魂胆なのでしょう」(三木氏)

前出の森永さんの指摘通り、手っ取り早く搾り取れるからと、庶民の楽しみを新たな標的に据えたわけだ。

「でもチューハイまで増税となれば、消費者の買い控えが起き、結局、財源確保もままならなくなるかもしれないというのに。格差が広がる今、庶民の酒の税はむしろ低くするべきです」(三木氏)

飲ん兵衛(べえ)よ、怒りの声を上げるべし!

(取材・文/牛嶋健、昌谷大介[A4studio])