昨年の夏から秋にかけ、日本で猛威を振るったデング熱。

「昨年8月、69年ぶりに国内感染が確認され、その後の2ヵ月で19都道府県162人もの患者が出ました。感染者のほとんどが東京・代々木公園か、その周辺を訪れた人だったことから感染の起点は代々木公園とされています」(全国紙記者)

この騒ぎで、代々木公園は昨年9月から約2ヵ月間も閉鎖。秋になってデングウイルスを媒介するヒトスジシマカが姿を消すまで、周囲は厳戒態勢を強いられた。

あれから1年、今年もデング熱パニックが日本を襲う危険性はあるのだろうか? デング熱に詳しい帝京大学医学部名誉教授の栗原毅氏がこう警告する。

「東南アジアではデング熱が昨年を上回るペースで発生しています。7月現在、マレーシアで6万7944人(死者185人)、フィリピンで4万593人(死者134人)、ベトナムで1万8千人(死者12人)などです。いずれも日本人の渡航者が多い国々なので、今後も警戒が必要です。

実際に海外で感染し、帰国した後にデング熱を発症した日本人は今年すでに130人に上っており、これは昨年同時期の1.5倍。ヒトスジシマカの吸血行動が8、9月に盛んになることを考えれば、昨年のような大規模なデング熱感染がいつ起きてもおかしくありません」

これに対し、東京都も毎年6月に行なっているデング熱の調査を前倒しし、4月から対策に当たっているというが、国立感染症研究所・ウイルス第一部の高崎智彦氏は「今年も大都市にある大規模公園には注意、警戒が必要」と言う。

「デング熱は、ウイルス感染した人の血をヒトスジシマカが吸い、さらに別の人を刺すことで広まります。そのことを考えると、感染者の多い東南アジア諸国からの観光客がたくさん訪れる国際空港のある大都市で、人の集まるイベントが催されることの多い大規模公園は今年もデング熱の流行地になる可能性が高いといえます。

昨年、感染の起点とされた代々木公園はゴミ箱が少なく、空き缶やペットボトルなどが園内に散乱していました。ヒトスジシマカはこうした空き容器にたまった雨水などに好んで卵を産みつけます。

その卵から孵化(ふか)した大量の蚊が東南アジアからの観光客などウイルス保有者を刺し、さらに別の人を刺すことで、デング熱の感染リスクが高まるのです」

デング出血熱になって重症化?

さらに、高崎氏は「今年はデング熱だけでなく、デング出血熱にも気をつけなければ」と警鐘を鳴らす。

「デングウイルスには1~4型の4種類あって、昨年流行したのは1型でした。しかし今、東南アジアでは2型の感染が数多く報告され、すでにその2型に感染してデング熱を発症した患者が国内で複数確認されています。デング熱は異なる型のウイルスに2度感染すると、デング出血熱になって重症化しやすい。つまり昨年、日本で1型ウイルスに感染した人が、今年さらに2型ウイルスに感染すると、デング出血熱になってしまうリスクが高まるのです」(高崎氏)

デング出血熱になると、発熱2~7日後に不安や興奮に襲われ、皮下出血、鼻血、吐血、下血、血尿といった全身出血状態となる。病状は重篤で死亡率は15%になるとも…。

昨年のデング熱騒動はわずか2ヵ月ほどで終息したこともあって「案外、大したことはなかった」というイメージを抱く人も多いが、その認識は危うい。デング熱は死と隣り合わせの怖い感染症なのだ。

『週刊プレイボーイ』34・35合併号(8月9日発売)では、昨年のデング熱騒動で感染し闘病したグラビアアイドル・紗綾にも直撃インタビュー! そちらもお読みください。

(取材・文/大野智己 興山英雄)