カウンター横には仏壇。東京・四ツ谷にある「坊主BAR」 カウンター横には仏壇。東京・四ツ谷にある「坊主BAR」

一般的に8月15日(東京など関東圏の一部では7月15日)あたりとされる「お盆」。

帰省ラッシュで日本全国大移動、みんなどっぷり疲れて、てんやわんやの年中行事だが、この時期とりわけ大変なのは? しかもお務めで…。

そう、お坊さんである! 一年でもっとも忙しく、檀家さんの家にお経を手向けに唱え、飛び回る。中には朝から夕方まで1日20~40軒ほどの檀家を回る場合もあるのだとか。

そんなお盆シーズン真っ只中、ツイッターのハッシュタグ「#坊さんあるある2015盆」がますます盛り上がりを見せている。

これは2013年頃から、お坊さんならではの「あるあるネタ」をツイッターに投稿したことからジワジワと話題になっているもの。「同級生の前だと若干気まずい」「流れる汗がくすぐったくてお経をよむ声が震える」などマジメな顔をしてお盆法要を済ませている彼らの“本音つぶやきタグ”として人気を博しているのだ。

TVのバラエティーでもお坊さんたちが登場し、すっかり人気の昨今だが、そんな親しみやすくなっている“生坊主”にあるあるネタを聞くべく、現役の僧侶がバーテンダーを務める、東京・四ツ谷「坊主BAR」にお邪魔してみた。

お話を伺ったのは坊主BARの店主で、浄土真宗・本願寺派の僧侶である藤岡善念さん。

 左が店主で僧侶の藤岡善念さん 左が店主で僧侶の藤岡善念さん

「今は、若い人がお寺に行かない時代。仏教の教えを広めるために若い人でも来やすい場所を作ろうと、僧侶たちでバーを開いたのです」と笑顔で語る藤岡さん。浄土真宗では宗派にもよるらしいが、仏教を広めるためなら形式はさほど問わないらしい。

実際、「坊主BAR」の僧侶らは「坊主バンド」なるロックバンドまで結成し、ライブも行っているという。親鸞もビックリである。

お茶より栄養ドリンクが嬉しい?

 一番人気のオリジナルカクテル「極楽浄土」(800円) 一番人気のオリジナルカクテル「極楽浄土」(800円)

さて、本題に戻るが「#坊さんあるある」で、まず目につくのがこの時期ならではの「暑さ」に関するあるあるネタが多いこと。藤岡さん(以下、坊主)にもそれを問うと…。

坊主「暑さでボーッとして、持ち物を檀家さんのところへ忘れてくることがよくあります。以前、数珠から経本まで全部置いてきちゃって焦りましたね」

あるある…ってNE-YO!! お坊さんがそんな大事なもの忘れちゃダメでしょー! ただ、逆に考えれば、それほど暑さでやられてしまうということ。確かに、真夏に黒色の布をあんな重ね着したら尋常じゃないわな。

また、真夏にも関わらず、檀家さんの家では熱々のお茶が出されることがよくあるという。実際「#坊さんあるある」の人気投稿「なぜ熱々のお茶を出されるのですか」には、多くの坊さんが膝を叩きまくったとか。しかし、例外もいるようで…。

坊主「私なんかは、逆に嬉しかったりします。冷たい飲みものばかりでお腹も冷えますし、熱いお茶を飲むと逆に汗がひいたりするんですよ。あと、栄養ドリンクは嬉しいですね。その場で飲まなくてもあとで飲めるじゃないですか。檀家を回っていると、お茶でお腹がタプタプになりますので、その場で飲む必要がないのはありがたいんですよ」

飲み物回りあるあるネタは豊富なよう。「得体のしれない飲み物を出していただいた時の覚悟の決め方が半端ない」というネタについてはこうつぶやく。

坊主「あるある(笑)。おばあちゃんに謎のドリンクを出されることって多いんですよ。おそらくコーヒーを作ってくれたんですが、なんか白い粉みたいなのが浮いてて、味もすごく水っぽかった。でも出された手前、飲まないわけにはいかないじゃないですか」

もはや苦行――?

坊主「はい。結果、お腹こわしました」

娘さんが可愛い檀家は楽しみ

 メニューはすべて精進料理「雷こんにゃく」(600円) メニューはすべて精進料理「雷こんにゃく」(600円)

一方、「どの家でも同じ話をする」というあるあるネタには、こう共感する。

坊主「そうなんですよ。しかも、“今年は暑いですよね”ばっかりで、他にネタがない。檀家さんのところで味わう無言ほど辛いものはない」

また、お盆は檀家の子供や孫の成長を1年に一度確認することができる機会でもある。中には、去年までマジメな娘さんだったのにいつの間にかギャルになってる…なんてことも。その目覚しい成長ぶりに思わず二度見してしまうこともあるのだとか。

坊主「正直、娘さんが可愛い檀家に行くこととか楽しみです。煩悩の塊!? ええ、まだまだ修行が足りませんね(苦笑)」

また、犬のいる檀家も少なくない。ただ毎年、酷暑の中、黒い布をまとってお経をあげにいっているにも関わらず、無慈悲に吠えられまくることも少なくない。

坊主「ありますねぇ。私は、吠える犬をお経の力でどこまで静かになるか試したりしますよ。声の響きや気持ちの入れようで、結構変わってくるものなんですよ。ミュージシャンの音楽が人の心を動かすように」

すごい! お経ひとつで犬を黙らせるなんて!

坊主「まあ一番効くのは、お経なんかよりおりん(お経の前に鳴らすお椀型の鐘)を鳴らした時なんですけど。あれを鳴らすと、どういうわけだかうるさい犬も黙ることが多いんですよねぇ…」

お経の力、関係ないし!!

坊主「そうやって悟りを開いてゆくのです」

夏といえば怪談だが…

そうそう、ところで夏といえば怪談だが、お坊さんは霊の存在を感じたりするのだろうか?

坊主「いえ、私は霊などは見えないですけど、やっぱりお盆の時期には霊的な現象に遭遇することはありますね。誰もいないはずのところで人気(ひとけ)を感じたり…」

な、なるほど……(ごくり)。つ、つ、続きを聞かせてもらっても?

坊主「あれは、お盆にホテルに宿泊した時のことでした…。夜中の2時に子供がはしゃぐ声で目が覚めたんです……」

丑三つ時ですか…。隣の部屋からですか?

坊主「それがね、窓の外から聞こえるんです。でもね、ありえないんです。なぜなら、私が宿泊していた部屋は10階以上の高層階でしたから」

マ、マジですか!? …ちょっぴりヒンヤリしたところで、最後に藤岡さんからお盆に関する、ありがたいお話をひとつ。

坊主「最近では、忙しさからお盆に誰も集まらず、誰ひとりいない家の中で、私がひとり仏壇の前でお経をあげるという檀家もあります。しかし、本来お盆とは普段会えない親戚などが集まって、仏教や死後の世界のことについて話し合い、先祖のことを想う日なのです。

そこで、自分たちが今をいかにして生きていくかを考える1日にしてほしいと願います」

この夏はご先祖様だけではなく、こんなお坊さんの語りにも想いを馳せながら、思い思いのお盆を過ごしていただきたい。合掌。

(取材・文/中川謙次)

<取材協力>「坊主BAR」住所:東京都新宿区荒木町6 AGビル2F 営業時間:19時~翌1:00 定休日:日曜・祝日定休http://vowz-bar.com/