「10年、20年前と比べて今は、格段に情報量が多くなっていますよね。TV、ラジオ、新聞、ネットなどのメディアだけでなく、ツイッターやフェイスブックなどを使って、一般の人も情報をアウトプットするようになりましたから。
現在は“情報量は増えた”けれども“質の高い情報の割合は増えていない”という状況です。そうなると“情報をどう使うか”よりも“必要のない情報をどう捨てるか”のほうが重要になってきます」
著者の成毛眞(なるけ・まこと)氏(投資コンサルティング会社代表で、元・日本マイクロソフト社長、現・書評サイト『HONZ』代表)は『情報の「捨て方」知的生産、私の方法』を書いたきっかけについてそう話す。
パソコンやスマホから流れてくる膨大な情報は本当に自分に必要なものなのか、そしてどうやって情報を捨てたらいいのか…。その前に成毛氏は、情報には「インテリジェンス」「インフォメーション」「データ」という、3つの種類があるという。
―この3種類の情報の違いから教えてください。具体的に、どう違うのでしょうか。
成毛 「インテリジェンス」は、別の言葉で表現するならば「インサイダー情報」です。専門家などの限られた人しか知らないこと。もっといえば、文字に書かれていないもの。
紙に書かれた情報はコピーなどが簡単で拡散しやすい。そのため情報の価値が下がります。人が話す情報は電波にでも乗らない限り、伝わる範囲が限られる。だから情報としては貴重です。身近な例でいえば、会社に勤めている人にとっての「内示前の人事情報」などがインテリジェンスといえるでしょう。
「インフォメーション」は、インテリジェンスではなくなった情報のこと。正式な辞令が下りて人事情報が社内に公開されれば、それはインフォメーションになります。別の言葉でいえば「常識」です。世の中にあふれている情報は、一部の例外を除いてほとんどが常識です。
では、この常識を軽視していいのかというと、そうではありません。常識を知らないと“非常識”な人になるからです。さらに、この常識も日々アップデートされています。ですから、インフォメーションは早く入手したほうが価値が高く、時間が経てば価値がどんどん下がってきます。
「データ」は、時間がたっても価値が下がらないもの。例えば、人事でいえば入社年度や経歴などです。
この3つの情報の中で、インフォメーション(常識)だけを持っている人は“一般大衆”と呼ばれる人です。そして、インフォメーションとインテリジェンス(インサイダー情報)の両方を持っている人が“情報通”といえます。
ニュースを読むのは通勤電車の中の15分間
-では、インフォメーションとインテリジェンスを集めるためには何から始めればいいのでしょうか。
成毛 そのためには「必要のない情報を捨てること」「一日中、情報を入手しないこと」です。私は、ニュースサイトは一日2回、朝と夕方しか見ません。朝は海外のニュースを中心に、夕方は国内のニュースを中心に。これは夜間、日本国内でニュースが生まれることはほとんどない一方で、海外では様々なニュースが生まれているためです。それぞれの更新のタイミングに合わせて読んでいます。
また、読むのは通勤電車の中の15分間です。時間を決めないとズルズル読んでしまう。やはりニュースサイトの人たちもプロだから、読みたくなるようなタイトルをつけているんです。だから、その中で自分に本当に必要なニュースだけをピックアップする。他のどうでもいいようなニュースは捨てるという判断をします。
―例えば、本や映画などニュースサイト以外の情報について、成毛さんはどのように取捨選択されていますか?
成毛 僕は、少しでも「面白そうだな」と思った本はすぐに買います。面白そうだと思ったからには自分にとって何か意味があるわけですし、時間が経つと買うのを忘れてしまうことも多いからです。それに知り合いに「最近、こんな面白い本があったよ」と教えられる。
しかし、読み出した本が面白くなかったら最後まで読みません。途中でやめて、次の本を読み始めます。それは「面白くなかった」という経験にしておけばいいのです。
映画も同じです。最初の20分間を見て、つまらなかったらやめる。よく「20分後から面白くなるから」という人もいますが、「それだったら最初から面白く作れよ」と思いたくなります。それができないのなら、その程度の作品だということです。ちなみに映画の場合、映画館だと途中で出にくいので、ほとんどDVDで見ています。
結局、自分にとって価値があるかないかを少しでも早く判断して、必要のないものは捨てる反射神経を日頃からトレーニングしていくことが大事なんです。そして、その作業によって生まれた時間を今度は「インテリジェンス」情報の収集のために当てるわけです。
面白いと思う人だけで飲み会を開く
―「インテリジェンス」情報はどうやって集めるんですか。
成毛 インテリジェンスは、人から聞いた特別な情報が中心です。そのためには、ありふれた言葉ですが「人脈を広げること」。人脈を広げるというと、よく大人数が集まる異業種交流会などに行く人がいますが、あれは「意味がない」とは言いませんが、僕は行きません。あの場で名刺交換をしても、スマホに流れてくるニュースと同じで、ただズルズルと他愛もない話をしてしまうだけだからです。
だから僕は「この人面白いな」と思う人だけを集めて飲み会を開きます。それも、ごく少人数で。そして、濃い時間を過ごして仲良くなる。貴重な情報はとびきり仲良くなった時に初めて教えてもらえるからです。
面白い人と仲良くなるには、自分も面白くなくてはダメです。じゃあ、面白い人間になるためにはどうすればいいのか。その方法のひとつはギャップを持つことです。
例えば、オフィスでデスクワークをしている人が、アフリカの経済や永久凍土の融解に詳しかったら興味を持ちますよね。面白い人には面白い人が吸い寄せられ、そして面白い情報が交換されていきます。その面白い情報、インテリジェンスを得るためには、ダラダラと流れている情報は捨てる必要があるわけです。
(取材・文/村上隆保 撮影/村上庄吾)
●成毛 眞(なるけ・まこと) 1955年生まれ、北海道出身。中央大学卒業後、アスキーなどを経て、86年に日本マイクロソフト社に。91年同社の代表取締役社長に就任。2000年に退社し、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。10年、書評サイト『HONZ』をスタート。早稲田大学ビジネススクール客員教授
■『情報の「捨て方」知的生産、私の方法』 (角川新書 800円+税) IT業界の第一人者が語る情報収集・管理術。「情報の種類について」「自分に必要な情報の入手の仕方」「ウソ情報、ダメ情報の見極め方」「情報の整理の仕方」「情報のアウトプットの仕方」「発想法」など、情報社会を生き抜くために必要なテクニックが満載