不法就労中だったあるタイ人は、全力疾走で逃走するも写真のような畑で足を取られ、あえなく御用に

レタス、ピーマン、水菜、レンコン…。これら野菜の出荷量がトップ5に入る茨城県は、日本を代表する“農業大国”だ。

そんな茨城でも、働き手の不足と高齢化は深刻な問題。関東農政局が2010年に行なった調査によると、茨城県内の総農家数は約10万戸。10年間で約4万5千戸も減った上、7割は60歳以上が占める。前回の調査から5年たった今、状況がより悪化していることは間違いない。

そんな中、新たな労働力として欠かせなくなっているのが、タイをはじめとした東南アジアの人たちの存在。若く賃金の安い彼らは農家にとって大きな助けとなっているが、その一方で、不法滞在者が働くケースも増えている。

茨城の外国人事情に詳しい地元記者は語る。

「ここ数年で、観光などの短期滞在ならビザを免除される東南アジアの国が増えたことが大きな要因です。そのまま滞在期間を過ぎても日本にとどまる人が増え、さらに『茨城なら働ける』と聞いて県外からも集まってきている。

厄介なのは、彼らの数を把握できないこと。昔のように特定の人材ブローカーがいれば、そこから捜査を広げられるんですが、最近はLINEなどの無料アプリを使って個人と個人で連絡を取り合っているからです。そして、そのネットワークの中心にいるのは、かつて土浦市周辺の風俗街で働いていた東南アジア人と、その2世の一部らしい」

県内に暮らすアジア系住人は農業が盛んな南部と西部に多い。その中には、取り締まりが厳しくなったことによって風俗街で働けなくなった「東南アジア人とその2世」も交じっており、不法滞在者たちのよりどころとなっている。

農家も「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」

では、不法就労が発覚した場合、摘発はどのように行なわれるのか。

「茨城県警が入国管理局の職員と一緒に、不法就労者が働く農家へ出向くことが多い。抵抗や逃走されることを考え、不法就労者ひとりに対して約10人態勢といったところですね。まあ、彼らの逃げる方法は至ってシンプルで、ただ走るのみです」(前出・記者)

農作業で真っ黒に日焼けした東南アジア人が、作物の実る大地をひたすら駆け、その10倍の日本人が追う。そんな逃亡劇を実際に目撃したという男性が証言する。

「近所にタイ人を不法就労させていた農家がいたんだけど、家の周りをブルーシートで囲んでたもんだから、余計に怪しくて(笑)。案の定、すぐに捜査の手が伸びた。いざ家の中に踏み込まれるって時に、そのタイ人が人垣を割って走り出したんだよ。速かったねぇ。逃げ切るかなとも思ったけど、途中でキャベツに足を取られて万事休す」

なんとも哀愁漂う光景だが、この問題は不法就労者の強制送還だけで終わらない。雇っていた農家も「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」に処せられるからだ。だが、そんなリスクを負ってでも人材が欲しいというのが農家の本音でもある。

とはいえ、不法就労者の数が増えれば取り締まりは厳しくなる。茨城の農地から彼らの姿が減るにつれ、特に首都圏のスーパーには不可欠の「茨城県産」野菜が減ってしまうかもしれない。

(取材・文・撮影/和田哲也)