中東に勢力を拡大し続けているイスラム国(IS)だが、新たに「中国」をターゲットとして視野に入れつつあるとの指摘がある。

カギを握るのは、中国と中東の間を結ぶ「新疆ウイグル自治区」だ。

実は、中国共産党の圧政に苦しんできたウイグルにはイスラム教徒が多い。弾圧や拷問により殺された活動家も多く、ウイグル人の共産党に向ける怒りは高まる一方だ。

中国問題に詳しいジャーナリストの古是三春(ふるぜみつはる)氏によると、TIP(トルキスタン・イスラム党)など中国共産党政権への武装闘争を否定しないウイグルの強硬派グループが軍人訓練の場としてシリアへ人員を送り込んでおり、ISへのウイグル人の参加も確認されている。

こうした経緯もあり、すでに昨年7月、ISは中国を“イスラムの敵”と断定した。つまり、もはや中国は、いつISと“接触”してもおかしくないわけだ。もし、そんなISに多数のウイグル人が参加するようになったら、どうなるか。

国際ジャーナリストの河合洋一郎氏が解説する。

「当然、新シルクロード構想(中国西部から西へ中央アジア、南アジア、中東を経由し、ヨーロッパまでつながる巨大な経済ベルトの構築)をターゲットにしたテロや破壊工作の危険性は急激に高まります。

さらに、中国西部地域は“イスラムの敵”を相手に自爆して天国へ行く日を待つジハード主義者たちの脅威にさらされることになる。また、シリアで実戦経験を積んだTIPの戦闘のプロたちが地元へ戻ってくることもあるでしょう」

アメリカが喜ぶ逆効果の愚策

また、イラクで石油産業に従事している1万人以上をはじめ、海外に在留する中国人にも危険が及ぶ。中東で対テロ作戦に従事した経験のある日本人コントラクター(傭兵)が言う。

「中国政府がイスラム教徒を弾圧していると喧伝(けんでん)されれば、中国人は欧米人並みに狙われることになります。ISの犯行ではありませんが、すでに今年7月には5万人のウイグル難民が暮らすトルコで、中国人に間違われた韓国人が極右団体に襲撃されるという事件がありました。

中国が強引な開発を行なっているアフリカのイスラム圏も危険地域です。鉱山、鉄道、道路、工場施設、公共施設、そして現地の中国人がターゲットとなるでしょう」

もちろん、こうした状況を前にして、中国がなんの手も打たないとは考えにくい。ただ、「打倒IS」を目論む国々も、なかなか一致団結とはいかないのが現状だ。

「例えば、イランは国境を接するアフガンがISの手に落ちてしまうと、西(イラク)と東(アフガン)からシーア派の皆殺しを是とするIS勢力に挟み撃ちされかねない。そこでイランは、すでにアフガンの一部のタリバン部隊に武器を提供し始めています。

ところが、アメリカがやっていることはその真逆です。対ISのカウンターバランスとして、現時点では利用価値が高いはずのアルカイダやタリバンの幹部を見境なしにドローンで殺害。そして『対テロの成果が上がった』と喜ぶ始末です」(前出・河合氏)

各国の混乱をあざ笑うように勢力を急拡大するIS。元外務省主任分析官の佐藤優は、日本にもやるべきことがあると指摘する。

「世界の安定と中国の安全保障に直接関わるこの問題については、早く中国と直接協議したほうがいい。この問題で中国と協力することは、中国の目を“西の危機”に向けさせ、南シナ海や東シナ海での挑発行為を抑制するという意味で、日本の国益にもかなうはずです。

問題は、安倍政権や外務省の目がそこに向いているのかどうかですが…」

(取材・文/植村祐介)