4年に一度の教科書採択を巡り、8月末を期限とする中、いつにも増して激しいバトルが繰り広げられていた。

特に歴史教科書に関しては今年が戦後70周年の節目で、安保法案の審議も注目される中、ヒートアップぶりは例年以上…。

歴史教科書の採択を巡っては、これまで何度も「左寄りだ!」との批判が繰り返されてきた。

その根底には、日本の教育界が戦後、勝ち目のない戦争に巻き込まれ、二度と同じ経験をしたくないと実感した復員兵たちによって担われてきた経緯がある。

そのため、“左寄り”とされる人たちが支持する歴史教科書には、国家や権力というものへの不信感が目立つことが多かった。

しかし、教科書を選ぶのは教育委員会であって教師ではない。そして教育委員は地元市民の中から選ばれる。だったら、教師の影響力は及ばないのでは? これについて、大阪府の市議が裏事情を説明する。

「例外もありますが、教育委員会は基本的に5人で組織されます。委員のうち4人は非常勤で、主に地元の名士やPTA役員などから選ばれる。その中から『委員長』を1名選びます。

しかし全員、教育に関しては素人だから事務作業や議事進行は常勤の『教育長』が担当します。教育長は委員を兼務し、自治体の役人から選ばれるケースがほとんどです。教育長は教育行政について知識と経験がありますから教育委員たちは従ってしまうものなんです」

そして、教育長は教科書採択において“強すぎる力”を持つという。

「国の検定を合格した教科書はたくさんあります。これらを素人の教育委員がすべて読んで審査するのは大変だし、学問的な知識がない人も多い。だから委員が選びやすいよう、教育長が主導し、事前に3冊程度にまで“絞り込む”んですね。しかしそこでの選別の基準はもちろん、教職員組合(日教組や全教)が喜ぶものかどうかになる。

例えば今回でいうと、比較的新しく、保守派といわれている育鵬社の教科書はまず除外する。おそらく左寄りの東京書籍や教育出版を残すはずです」(M氏)

教科書選びはこんなにゆがんだカタチで戦後ずっと続いてきたのだ…。

“事前絞り込み”禁止の通知も有名無実?

しかし、ついに改革の動きが起きていた。文部科学省の現役キャリア官僚が解説する。

「今年4月、文科省は全国の自治体に対し、教科書採択時の“事前絞り込み”を禁じる旨の通知を出しました。これは安倍政権の意向をくんだところもあると思います。

さらに、教育長と教育委員長と、“長”がふたりいるのは責任の所在がわかりにくいということで“新教育長”として一本化する仕組みに変えました。その新教育長は各自治体の首長が任命します。教育委員会の制度にメスを入れるのは、実に60年ぶりのことです」

それで、この夏の教科書選びはマトモになるの?

「いえ、そうはなっていません。教育長は教育委員を兼務していて、教育委員の任期は4年あるため、今回は従来と同じ状況の自治体がほとんどだと思います。当然、禁止となった“絞り込み”も各地で横行していますよ」(前出・市議)

この市議によると、特に東大阪のバトルは激アツらしい。

「東大阪市は4年前、育鵬社の公民教科書を採択しました。東大阪市には、教育委員会の前段階に『教科書選定委員会』というものが存在します。そこで育鵬社を推薦した選定委員が多数いたにもかかわらず、組合の意向に従った選定委員長が強引に育鵬社以外の3社の教科書に絞り込み、それを教育委員会に上げた。まさに今年度から文科省が禁じている“絞り込み行為”です。

そこで教育長以外の4人の教育委員たちは、なんで現行の教科書を最初から除外するのかと疑問を呈し、選定委員会を無視して育鵬社を採択しました。教科書の採択はあくまでも教育委員会の権限だからなんの問題もないはず。しかし組合側の勢力は、テレビ大阪などのマスコミも巻き込んで“教育委員会の形骸化だ!”などと論理的に破綻した批判を展開しているのです」

大阪は“アンチ橋下”で反動も!

大阪は元々、左翼勢力が強い地域。それにもかかわらず、この夏の採択では保守派である育鵬社を選ぶ自治体が続出しているという。そこには、あまりにも子供たちを置いてきぼりにしたバトルが繰り広げられていた。

「東大阪市のほか大阪市、河内長野市、四條畷(しじょうなわて)市、泉佐野市で育鵬社の採択が決まっています。この動きは5月に行なわれた大阪都構想の住民投票が影響している。橋下大阪市長は、府知事時代から教育改革に熱心でした。そして学校選択制や、校長を民間公募で選ぶなど教職員組合が嫌う改革ばかりやろうとして、全面対立します。

そこで教職員組合と日本共産党らは徹底的に“アンチ橋下キャンペーン”を張りました。小学校の教師までもが授業で子供たちに都構想に反対する話をして、小学生たちが『都構想ハンターイ、ハンターイ!』と連呼しながら下校する光景があちこちで見られた。

さすがに保護者たちも、それには拒否反応を示した。小学生にまで政治思想を持ち込むとは何事だという空気が生まれ、PTA系の教育委員たちが左寄りの教科書拒絶につながったのです」(市議)

自分たちの理想に執着しすぎたあまり、従来の支持層からも嫌われることになってしまったというわけだ。本来の目的だった「子供たちのため」という視点ともかけ離れ、この歪んだ教科書選定バトルはどこへ向かうのかーー。

週刊プレイボーイ36号「新しい中学歴史教科書選びで教育現場が仁義なき大バトル中!」(本誌ではさらに内実の告発も紹介!)