「観光資源だったサケ漁で復興に貢献したい」と語る松本組合長

9月5日、東京電力福島第一原子力発電所事故によって全町民に避難指示が出ていた福島県楢葉(ならは)町の避難指示が解除された。

同日には復興祈念式典も行なわれ、町の復興ムードは盛り上がりつつある。

しかし、避難指示が解除されたといっても、復興には大きな壁がある。解除に合わせて町に戻る住民は、震災前の人口約7千人のうち約1割程度しかいないのだ。

3歳と5歳の子供を連れて復興祈念式典に出席した男性が複雑な表情でこう語る。

「町に戻るかどうかはまだわかりません。被災した家の解体だけでも業者が混んでいて1年待ち。解体後に家を新築する場合でも大工さんが足りなくて、いつになるかわからないんです」

そんな住民たちの困惑の一方で、明るいニュースも。楢葉町を流れる木戸川でのサケ漁が10月中旬から5年ぶりに復活するというのだ。

「木戸川のサケ漁は本州でも有数の水揚げ高を誇っていましたが、津波で漁協の施設が破壊され、放射能の影響で避難指示が出たため中断していました。最後の漁は2010年秋でしたから5年ぶり。やっぱり仕事ができるっていうのは嬉しいもんですよ」(木戸川漁業協同組合・松本秀夫組合長)

震災後は松本組合長もいわき市内の仮設住宅に避難。楢葉町にある自宅の補修が完了するのは来年春頃になるため、しばらくは約1時間かけて楢葉町まで通うという。

「現在、孵化(ふか)場、加工場、取水設備の工事を進めています。10月下旬にはようやく施設が一部完成する予定。サケ漁で町の復興に貢献できればと思ってます」(松本組合長)

放射能の不安はない?

木戸川のサケ試験採取の模様

そこで、気になるのは放射能の問題…。サケは大丈夫なのか。

「漁協では震災翌年の2012年から、毎年、木戸川を遡上(そじょう)するサケのモニタリング調査を行なってきました(12年は10回。13年、14年は各8回)。サケは回遊魚で、川に来てからは餌を一切食べません。そのため精巣、卵巣、切り身とも放射性物質(セシウム134、セシウム137)はND(検出限界以下)でした。これなら食べることができる。もちろんこれからも放射能の検査をして、サケの身やイクラを使った加工品の販売を再開する予定です」(松本組合長)

震災前、「サケ漁」は楢葉町の観光資源でもあっただけに放射能の不安がないのは何より。だが別の不安も…。

「木戸川では毎年3月下旬に約1500万匹のサケの稚魚を放流していました。秋に戻ってくるのは3年から6年たった成魚(約8万から13万匹)で、中でも一番多いのが震災の年に放流する予定だった4年魚。でも、あの年は一部しか放流ができなかったので、今年から数が大幅に減るかもしれません。

ただ、震災では放流前の稚魚がいた孵化場も津波で流されているので、その中からいくらか海に出ていったものが川に戻ってきてくれるといいのですが…」(松本組合長)

10月中旬から簗(やな)を使った漁、合わせ網、地引き網での漁を開始。10月末には関係者による有効利用調査(釣り)も行なわれる予定だ。

「木戸川ではサケ漁の様子を間近で見られます。見学は大歓迎。午前11時頃が見頃ですね」(松本組合長)

週プレも見に戻ってきます!

(取材・文/畠山理仁)