福島の国道6号線の清掃ボランティアには地元の高校生ら1400人が参加。だが、その清掃エリアには高線量のホットスポットが点在していた… 福島の国道6号線の清掃ボランティアには地元の高校生ら1400人が参加。だが、その清掃エリアには高線量のホットスポットが点在していた…

福島の国道6号線を、地元の子供たちを含むボランティアで清掃する活動が波紋を呼んでいる。

福島第一原発周辺の“6国”といえば、地域が放射性物質で汚染されたことから原発事故後に通行制限が行なわれ、昨年9月に全面解除されたばかり。

まだ放射線量が高いホットスポットがあちこちにある環境で、わざわざ子供たちにゴミ拾いをさせるのは危険だと全国から反対運動が湧き起こった。

だが、主催者側は予定通り10月10日に清掃活動を実施し、中高生を含む1千人以上が参加。このボランティア活動は国交省や地元自治体、東電などが後援や協賛し、地元紙は反対運動のことは一切無視。ただただ街をきれいにする美談として報じている。

でも、何かおかしくないか? 反対運動を行なう人たちも入り混じる中、当日の清掃活動の様子をレポートする。

天候に恵まれた土曜日の朝9時、開会式会場となった広野町の二ツ沼公園には、参加者の印であるオレンジ色のTシャツを着た多くの地元民が詰めかけていた。その中にジャージ姿の子供らの姿が見える。20人以上の中学生らしき集団に声をかけると、地元のサッカーチームから希望者が参加したという。学校単位で参加した高校生もいる。

主催者の特定非営利活動法人のハッピーロードによると、この「みんなでやっぺ!!きれいな6国」の清掃ボランティア活動への参加者は地元住民を中心に1400人。福島第一原発事故前には4千人を超える規模で行なわれていて、今年は5年ぶりに復活したのだという。

清掃作業は相馬市からいわき市まで国道6号線の約50キロ区間を8地区に分け、分担して歩道やその脇に落ちているゴミを拾う。

休日に早起きしてゴミ拾いをすることは立派な行為。だが、問題はその場所だ。福島原発事故から4年半が経ち、除染作業が進んでいるとはいえ、国道6号線周辺には放射線量が高い場所がまだ残っている。その中には、浪江町や富岡町など第一原発からほど近い場所も含まれている。被曝の心配はないのだろうか。

実際、今回の清掃ボランティア活動には全国から反対の声が相次いだ。イベントに先立つ数日前、「こどもたちの健康と未来を守るプロジェクト・郡山」の呼びかけで、全国の66団体が反対声明を出していたのだ。反対する理由は、

1、国道6号線の帰還困難区域は依然として、バイク、自転車、歩行者などの通行はできない。それなのに、清掃ボランティア活動には一部の帰還困難区域、居住制限区域、避難指示解除準備区域が含まれている。

2、清掃ルートの詳細な放射線量が公表されてなく、参加判断の材料が乏しい。

3、被曝防護措置がとられていないにも関わらず、数百人の中高生の参加が見込まれている、といったもの。

つまり、参加者の安全は担保されず、無用な被曝につながる活動はとても社会貢献とは呼べないというものだ。

開会式会場も危険な場所だった!

 清掃ボランティア活動『みんなでやっぺ!!きれいな6国』の開会式の様子。会場の周囲には法令基準で“一般人が立ち入れない”高線量な場所も 清掃ボランティア活動『みんなでやっぺ!!きれいな6国』の開会式の様子。会場の周囲には法令基準で“一般人が立ち入れない”高線量な場所も

しかし、そうした反対運動をよそに主催者は清掃活動を決行した。しかも反対の声が上がったことには開会式ではひと言も触れず、こんな曖昧(あいまい)な表現を使ったのである。

「活動を復活するために本当にいろいろなご意見があったが、ひとつずつ考えようと思う」(主催者代表の西本由美子氏)、「様々なご意見があると思うが、子供たちと同じ場所に立っていたいと思う」(来賓で訪れた自民党福島県議の吉田栄光氏)――全国から上がった反対運動の声を「いろいろな意見」のひと言だけで片づけてしまったのだ。

清掃活動が実施されると聞いて、反対する人たちも放射線測定器を手に現地に詰めかけた。東京から来た「ふくいち周辺環境放射線モニタリングプロジェクト」の中村順氏と池上宣文氏のそのグループだ。

「ホットパーティクルと呼ばれる高線量のホットスポットがまだある中、きちんと汚染状況を計測せず、放射線への知識のない子供たちにゴミ拾いさせるという。聞いた時には涙が出てきました。それで、測定しながら子供たちと一緒に歩き、危険な場所を知らせることにしたのです」

ふたりが開会式の行なわれた二ツ沼公園の数ヵ所を測定すると、地上1メートルの空間線量は毎時0.2マイクロシーベルト程度。だが地表は、その倍以上の毎時0.5マイクロシーベルトを記録。建物の雨どい下に線量計を置くと、毎時1.5マイクロシーベルトを超えた。

国の除染基準は毎時0.23マイクロシーベルトだから、その5倍以上の数値だ。都内で測定すると毎時0.04マイクロシーベルト程度の場所もあることを考えれば、第一原発から30キロ以上離れている広野町でもどれだけ放射能汚染されているかわかるだろう。

同時に公園の土壌を採取して汚染度を測定すると、9万600Bq(ベクレル)/m2(平方メートル)という極めて高い数字が出た。法令で定められた放射線管理区域の基準は4万Bq/m2。本来なら、この数字を超えれば一般人が立ち入れない場所になる。

放射能の話? 学校では誰もしないし…

開会式が終わると、ビニール袋を持ちながらグループごとに分かれてゴミ拾いが始まった。配られた軍手とマスクをしていない人もいる。歩道脇に続く草むらにゴミが落ちているのを見つけると、参加者たちは躊躇(ちゅうちょ)なく飛び込んでいく。

一般的に除染は車道や歩道までは行なうが、その脇の草むらまではしない。つまり高い放射線量のままで放置されている。中村氏、池上氏が歩道上の草が生えている場所に次々に測定器をあてると、毎時0.5マイクロシーベルト、0.8マイクロシーベルトと数値が上がる。毎時1.3マイクロシーベルトを超える場所もあった。

そうした場所に近づき、汚染された地面のゴミを取るなどすると、放射性物質を吸い込んで余計な内部被曝をする恐れがある。それにホットパーティクルと呼ばれる高濃度汚染物質が舞っている場合は、余計に注意が必要だ。

ふたりは線量の高い場所を見つけると、「みんな見てごらん。ここは放射線量が高い場所だから近づかないでね」と声をかける。本来なら主催者がするべきことではないだろうか?

広野町にある福島県立ふたば未来学園高校から参加したというふたり組の女子高生に話を聞いてみた。

「参加したのは学校の美化委員だったから。強制参加でした。放射能の話? 学校では誰もしないし、みんな気にしていないと思います。今日の清掃活動をすることで反対運動があったのですか? 全然知りませんでした」

記者がなぜ反対運動が起きたのかを説明し、ふたりと話し終えると、いつの間にか後ろにいた付き添いの先生にこう言われた。

「取材は清掃活動が終わってからにしてください」

そこで、先生に「今日の活動は強制参加なのか?」と尋ねると、「そんなことはありません。希望者だけです」と慌てて否定。そんなやり取りを聞いたのか、間髪を開けず主催者団体のひとりが飛んできた。事前に取材に関する規制も注意もなかったが、やはり反対運動があったからだろうか…報道陣を警戒している様子が窺える。

(取材・文・撮影/桐島 瞬)

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