ディーゼルエンジン車で排ガス規制逃れが発覚したフォルクスワーゲン

ディーゼルエンジン車で排ガス規制逃れが発覚したフォルクスワーゲン(以下、VW)。問題の車種は日本では販売されていないが、通常走行時には規制値の10倍から40倍というとんでもない数値を叩き出すシロモノを、北米を含む全世界で1100万台も売っていたというから深刻だ。

不正を告発したアメリカの環境保護局(以下、EPA)は、はVWに対して総額で2兆円規模の罰金を科す方針を明らかにしているが……。「これはまだ、VWがこの先直面する損害のほんの一部にすぎません」と語るのは、ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹(くまがいとおる)氏だ。

「ドイツでは問題の車種について来年1月からリコールが始まりますが、この費用だけでも日本円で9000億円以上が必要だといわれています。

また、アメリカだけでなく、EU各国からも制裁金を科される可能性もあります。さらにこの先、各国での集団訴訟やVW株価の大幅な下落の責任を追及する株主訴訟、販売台数の低下なども考慮すれば、グループ全体の損害額がどこまで膨らむのかは未知数です。

ちなみにドイツ経済研究所は、損失の総額が日本円にして最大で14兆円という予想をしています。これは実にドイツのGNP(国民総生産)の3%に当たります。

VW本社のあるドイツのニーダーザクセン州はVWの株主でもあり、VWの存在が雇用や地方自治体の税収にも大きく影響するため、今回の事件がドイツ経済全体にも少なからぬ影響を与えることは間違いないでしょう」(熊谷氏)

VWグループは、その傘下にアウディ、ポルシェ、ランボルギーニなど12のメーカーを持ち、トヨタと並ぶ世界最大の自動車メーカー。ドイツ政府からもさまざまな保護を受けており、事実上の半国営企業ともいえる。

それだけに潰れることはないという見方が強いが、EUの経済を引っ張る「機関車」の役割を果たしてきたVWの危機が、今後世界経済全体に悪影響を与える可能性も否定できない。

不正に手を染めたVWに、トヨタの影!?

それにしてもVWはなぜ、こんな「大失態」をやらかしたのか? その背景に同社の「世界一へのこだわり」があったのではないかと自動車評論家の舘内端(たてうちただし)氏は推察する。

「VWはこの10年で世界での販売台数を2倍近くまで拡大するという大躍進を遂げました。その原動力になったのが中国市場での圧倒的なシェア拡大。そこから、さらなる成長を目指すとすれば、VWが何度も進出に失敗してきた北米市場の開拓しかない。

なんとしてもトヨタを抜いてナンバーワンの座を獲得したかったVWは、欧州で大きな成功を収めた小型のディーゼルを北米で売ろうと考えたのでしょう。しかし、アメリカの厳しい規制をクリアできず、不正に手を染めてしまったのかもしれません。

また、VWグループは企業体質として中央集権的な性格が強い。目標達成を迫る上層部からの強いプレッシャーが現場の判断を誤らせたという可能性もあります」(舘内氏)

いずれにせよ、これでVWが抱いていた「打倒トヨタ」の野望が大きく崩れたことは間違いない。

(取材・文/川喜田 研)

■さらに、トヨタほかの日本車に及ぼす影響などは、週刊プレイボーイ45号「VW偽装スキャンダルで得するのは誰だ?」でお読みいただけます!