今回取材した、さくら事務所が実際に発見した壁のひび割れ。幅1ミリ超のひび割れは施工不良の可能性が高い

データ偽装と杭(くい)打ちの手抜きによって建物が傾斜した、横浜市内の“傾きマンション”。後を絶たない不良工事や欠陥住宅を見抜き、安全な物件を選び取る術はあるのか? 住まいの専門家に聞いた――。

今回、欠陥マンションをつかまないコツを教えてくれたのは、分譲マンションの設計および工事監理の豊富な経験をもつ一級建築士の碓井民朗(うすいたみお)、約3万件の住宅診断を行なってきた、さくら事務所の辻優子氏だ。

本題に入る前に、横浜の事例についてふたりに尋ねてみると「プロでも見抜くのは無理」と口をそろえる。なぜ?

「欠陥が露呈する発端になった手すりの段差は、2007年の竣工(しゅんこう)から8年をかけて徐々に生じたもので、住民だからこそ気づけた異変。そもそも施工データが改竄(かいざん)されていますし、杭の深度不足による傾斜を竣工時に見抜くのは不可能でしょう」(辻氏)

しかし、今回のような特殊な例を除き、「欠陥が生じる可能性のある物件」を素人でも見抜けるコツはあるという。

1.外壁や共用部分の柱、梁に幅1㎜以上のひびがある

「まず、外壁に無数のひび割れがあったり、タイルが大きく膨張していて、なおかつ築10年以内の場合は、施工不良の可能性が高いです」(辻氏)

施工不良とは?

「4次請け、5次請けが常態化したゼネコンのマンション建設現場では、素人同然の職人が紛れ込みコンクリートに水を必要以上に混ぜたり、作業手順を間違えるなどのミスが起こりがちです。また、工費を浮かそうと鉄筋を細くしたり本数を減らすなどの不正もある。その結果、鉄筋が重みに耐え切れずにゆがんだり、建物自体に傾きが生じ、コンクリートがひび割れを起こすのです」(碓井氏)

ただし、ひび割れにはふたつのパターンがあるという。

「“ヘアークラック”と呼ばれる、毛髪の太さほどの幅のひび割れが一部に見られる程度なら、コンクリートの性質上やむを得ない現象なので、そこまで心配の必要はありません。しかし幅1㎜以上のひび割れは施工不良の可能性が高い。外壁のほか、共用部分の柱や、太い梁(はり)の部分に大きなひび割れがないかも確認してください」(碓井氏)

2.バルコニーの排水溝に水がたまっている

室内に入ったら、まずはバルコニーの様子を確認したい。

「バルコニーや外廊下に雨水排水溝がありますが、そこに水がたまって排水竪管(たてかん)まで流れていない場合は要注意。排水溝の排水勾配が確保されていないか、建物が傾いている可能性があります」(碓井氏)

3.室内をはだしで歩くと不自然な傾斜や凸凹がある

「スリッパでは気づけない異変を察知するため、はだしで床を踏み締めて歩きます。そこで不自然な凸凹や傾きを感じることがあります」(辻氏)

『週刊プレイボーイ』45号「『傾くマンション』を見抜く10のコツ」より(本誌では、欠陥物件を見分ける残り7つのコツを一挙紹介! ぜひお読みください!)

(取材・文/頓所直人 写真提供/さくら事務所)