10月12日、16歳の女子高校生と恋愛関係にあった27歳の男性会社員が、「未成年者誘拐」の疑いで逮捕された。
事件のあらましはこうだ。出会い系サイトを通じて今年6月にやりとりを始め、LINEで女子生徒から悩みを相談されていた男性会社員が「俺のところ来るか?」と誘い、7月21日にふたりは初対面。その後、女子生徒が自宅に帰らなかったため家族が行方不明者届を出し、29日に男性の自宅マンションにいるところを女子生徒は保護された。
この段階では、女子生徒が男性に好意を抱いており被害者意識が薄かったため、任意で捜査。男性も「もう彼女とは会わない」と供述していたという。
ところが今月3日に再び女子生徒が失踪。12日に愛媛県松山市のホテルでふたり一緒にいるところを発見され、男性会社員は逮捕された。
しかし、ネット上では「これって誘拐になるの?」「相手の女子高生は結婚できる年齢なのに?」「自由恋愛の侵害では?」という疑問の声が相次いだ。その主な理由はふたつ。
(1)女子生徒と男性は互いに恋愛感情を抱いていた。 (2)女子生徒へ金銭を渡すなどの、買春を思わせるやりとりもなかった。
確かに、この2点だけを見ると「なぜ逮捕?」との疑問が湧き上がるのもわかるが、高槻署の副署長は次のように説明している。
「男性は(女子生徒の)親と連絡を取ったことがなく、未成年者を無断で連れ回すことがいけないことだと知っていました。まだ精神的に不安定な年頃なのに、甘い言葉でだまして自己の支配下に置いて連れ回すのは、悪質で許されないことだと考えて誘拐容疑に切り替えました」
寝屋川事件の影響
憲法学が専門で慶應義塾大学の小山剛(こやまごう)教授は、逮捕に至ったポイントをこう解説する。
「高槻署の発表を見る限り、ポイントは『甘い言葉でだまして』という部分でしょう。確かに今回の女子生徒は(民法で)結婚できる年齢であり、婚姻は日本国憲法24条『両性の合意』によって成立しますので、婚姻の合意に至らないまでも恋愛はできることになります。しかし、『だまして』いたとすると問題は別。つまり、未成年者の心身の未熟さにつけ込むことは許されない、ということでしょう」
加えて、どうやら今回の逮捕は、今年8月に寝屋川市の中学1年女子の遺体が、高槻市内で発見された事件の影響を大きく受けているようだ。
「(8月の)事件があってから、少年少女への行為については敏感になっています。自暴自棄になって最悪の事態になっては困りますので、できる限りのことをして食い止めようと考えました。府警本部の捜査第一課とも協議し、(今回の男性会社員を)指名手配して身柄を確保することを最優先にしました」(高槻署副署長)
このコメントを受け、小山教授は「寝屋川市の中学生の事件がなければ、今回の男性が逮捕されなかった可能性もあるでしょう」と分析する。
とはいえ、男性会社員は「(女子生徒と)駆け落ちしようと話し合っていた」とも供述しており、決して“だました”わけではなく、“真剣に恋愛していた”という主張のようだ。
「今回は青少年保護育成条例の淫行処罰ではなく、未成年者略取及び誘拐罪が適用されています。当事者間に真剣な恋愛感情があった可能性も高かったため、高槻署は淫行条例で逮捕するのは難しいと判断したのかもしれません」(小山教授)
なるほど。要するにこのケースは、女子生徒の両親が行方不明者届を出していたため、保護者に無断で連れ回したとして「未成年者誘拐の疑い」がかけられたということか。
ということは、男性会社員が女子生徒の両親にきちんと電話などで連絡を取り、事情を説明しておけば逮捕されることはなかったのかもしれない。もっとも、両親から反対される可能性が高いことは言うまでもないが。
取材・文/昌谷大介(A4studio)
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