「現在のマンション価格上昇の実態は建築費の高騰を価格に転嫁しているだけ」と指摘する牧野氏 「現在のマンション価格上昇の実態は建築費の高騰を価格に転嫁しているだけ」と指摘する牧野氏

横浜市のマンション欠陥工事問題で揺らぐマンションへの信頼ーー。

東京オリンピックを目前に高騰する価格を前に、いずれにせよ手が出せない庶民としては「あ~買わなくて良かった」なんて、思わず言ってしまうのは負け惜しみ?

そんな中、不動産コンサルタントの牧野知弘氏は、著書『2020年マンション大崩壊』で「オリンピック後にマンションの空き家は激増し、コミュニティの崩壊が始まる」と予測する。今、マンション市場で何が起きているのか?

―空き家というと地方の一戸建てのイメージが強いですが、実は首都圏のマンション空き家が増えているそうですね?

牧野 2013年の調査で、首都圏1都3県の空き家率は10%強と全国平均の13.5%より低いものの、その実数は膨大です。東京都の空き家は81万7千戸で、全国でもダントツの1位。その中で、マンションの空き家は51万8600戸と64%にも及びます。

-なぜ、そんな状況になってしまったんでしょう?

牧野 マンションは都心から建設されていったため、中心部の物件からどんどん老朽化していきます。その住人が高齢となり、高齢者施設に入居したり亡くなったりして、そこで育った子供たちが親の家に住まないと必然的に空き家になります。

また、それらの中には旧耐震基準の物件も多くオートロックなどの設備も不十分なため、売るにも貸すにも人気がない。大規模修繕や建て替えも難しく、結果、空き家のまま放置されることに。さらに、都心に多い賃貸用のワンルームマンションも、若年人口の減少により空き家が目立っています。

―オリンピックを前に新築も中古も価格が高騰し、マンション市場は活況に見えたのですが…。

牧野 そもそも、その認識にはやや誤りがあります。10年前は1都3県でマンションは10万戸が供給され、7万戸が契約されていた。ところが今は供給数が5万戸、契約数は3万5千戸まで落ちている。契約率が同じ7割だから「マンションは好調」と言いますが、実際のマーケットは半分に萎(しぼ)んでいます。

また、価格上昇の主な理由は建築費の高騰。マンション全体の価格を100とすると、一般的に土地代が30、建物代が70ですが、建築費が3年前と比べ30~50%上昇していて、その分を価格に転嫁しているのが実態。マンションの資産価値が上がっているわけではありません。

人気のタワマンすら価格は下落

―しかし、さすがに“高嶺の花”である都心のタワーマンションの価値は安泰なのでは?

牧野 確かにタワーマンションはよく売れています。しかし、物件にもよりますがその高層部を買っているのはおもに中国人投資家です。彼らは実際に住むわけではなく、中国からの旅行者に貸したりする。タワマンに住む友人は「隣の部屋で中国人旅行者がどんちゃん騒ぎしてたまらん」と嘆いていました。

もうひとつが、相続税の節税を考える富裕層。同じ100平米の住戸でもたとえば低層部は8千万円に対し高層部は1億円以上と価格差がある。それでも相続時の評価は同じ価額。つまり、時価が高い分だけ相続税はうんと圧縮できるので好んで高層部を買う。この人たちも実際に住んではいません。

実際の住人は、下層階に住宅ローンをめいっぱい借金して住む人たち。でも上層階を見上げると、自分たちとは全く価値観の異なる人たちが所有しているのが現状です。

-それが、オリンピックを契機にどうなるんでしょう?

牧野 中国経済が減速をはじめる中、中国人投資家はもともとオリンピック目当てで購入してきたこともあり一斉に売りに出すことが予想されます。そして、タワーマンション節税の人たちも親が亡くなれば対策終了すれば売却するでしょう。さらに相続税評価については国税庁が評価方法を変更する可能性があるとの指摘もあります。

これらの需要がなくなった瞬間、新築の売れ行きに陰りが出るかもしれません。さらに、一時期に売りに出されると価格は下落。マンション市場全体に影響を及ぼし、一方で空き家も激増するでしょう。だから、その時に買おうと思ったらよりどりみどり。今買うのが良いタイミングとは言いがたいのです。

*郊外の中古物件は危険な買い物? 購入と賃貸、結局どちらがいい? この続きは明日配信予定!

●牧野知弘(まきの・ともひろ) オラガHSC株式会社、株式会社オフィス・牧野代表取締役。東京大学経済学部卒業。ボストン・コンサルティング・グループを経て、三井不動産に勤務。2006年、J‐REIT(不動産投資信託)の日本コマーシャル投資法人を上場。現在はホテルや不動産の開発・運用アドバイザリーのほか、事業顧問や講演活動を展開。主な著書に『空き家問題--1000万戸の衝撃』(祥伝社新書)ほか

■『2020年マンション大崩壊』 (文春新書、842円) 空き家は地方だけの問題ではない。今、都心部でも進行する「マンションの空き家問題」とは? 住人の高齢化、管理費や修繕積立金の滞納、スラム化など、首都圏のマンションで生まれつつある数々の問題を分析し、その未来を予測。マンション購入か賃貸かを迷う人は必読!

 

(取材・文/田山奈津子)